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身体所見としての体格・体型・栄養

Emergency Nursing 1997;新春増刊号「身体の理学所見」
【 体格・体重の異常】

  体格とは主に身体の大きさの表現で、大・中・小などと表現される。体格の異常には、身長の異常と体重の異常がある。同じ体格であっても人種、民族、環境、時代によって意味が異なる。一般に、その民族、その人種の標準的な体格と比較し、3σ以上の偏位を異常としている。

体格の異常をきたす疾患

  体格に異常をきたす代表的な疾患は大別すると、ホルモンの異常(分泌・認識の異常)、骨発育の異常、遺伝的の異常(代謝・合成の異常)に分けられる。

  1. 身長発育の異常
    1. 巨人症
    2. 小人症

  2. 身長・体重のバランスの異常
    1. 体重異常の評価法
    2. 肥満
    3. やせ(るいそう)

  3. 参考文献

「目のつけどころ」
  救急医療で重要なのは、
  • 異常なのか異常でないのか
  • 栄養障害があるか
  • どのような基礎疾患が考えられるか
  • どのような治療上のリスクがあるか
 を素早く判断することである。

1. 身長発育の異常

1. 身長発育の異常
I) 巨人症(giantism): 身長が標準の2σ〜3σ以上
  1) 体質性高身長 最も多い。家族的素因による
  2) 下垂体機能亢進性 骨端線閉鎖以前の下垂体(成長ホルモン産生)腫瘍による。
突然腫瘍内出血(下垂体卒中pituitary apoplexia)を起こすことがある。
  3) 先天性代謝異常 Marfan症候群:やせて背が高く下肢や指趾が長い。
動脈の中膜が脆弱で大動脈起始部動脈瘤、解離性動脈瘤、
大動脈弁閉鎖不全
などを起こす。
II) 小人症(dwarfism): 身長の成長発育の遅延が2σ以下で疑い、3σ以下で異常
  1) 骨疾患 軟骨発育不全(achondroplasia)、くる病など骨発育の異常。
  2) 全身性疾患 心・腎・肺・消化管の疾患、代謝疾患などによる代謝栄養障害や
循環障害による発育障害。救急患者では特に基礎疾患の存在や
被虐待児(battered child)に注意する必要がある。
  3) 体質性発育遅延 小児期標準発育より2〜4才遅延し思春期が遅延するが
思春期以後は正常
  4) 非内分泌性発育遅延  不均一な体型で奇形を伴うことがある
    i) 均整型: 遺伝性で体型は均整が取れ奇形はない
    ii) 奇形伴う不均整型: 遺伝性でプロポーションの異常があり他の先天奇形を伴う
    iii)性腺機能不全: 女性、内外性器の発育不全、他の奇形を伴い性染色体異常
  5) 内分泌疾患 甲状腺機能低下(小児)、下垂体機能低下、思春期早発などがある

「目のつけどころ」  救急医療では、太字の項目に特に注意を要する。

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2. 身長・体重のバランスの異常

  いわゆる「肥満」と「やせ」である。標準体重から20%以上偏位しているものが異常と見なされる。
 標準体重からの偏位は次の2つの方法で評価できる。

  1. 標準体重と肥満度

      標準体重の求め方には次の方法がある。

    • Broca法
      標準体重 = {身長(cm)−100}
    • Broca変法
      標準体重 = {身長(cm)−100}×0.9   :身長≧150cm

      標準体重 = {身長(cm)−105}      :身長<150cm

        求めた標準体重と実測体重から、

    • 肥満度
      肥満度 = {実測体重 ÷ 標準体重}×100−100
      やせ
      <-20%
      体重減少
      <-10%
      +10%
      >正常>
      -10%
      +10%<
      体重過剰
      軽度肥満
      +20%≦
      肥満

  2. BMI(body mass index)
    •      {体重(kg)}
      BMI=-----------
           {身長(cm)}^2
    • やせ<20 22≦正常≦23 25≦体重過剰
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<肥 満>(obesity)

  肥満とは、過剰に脂肪が沈着して身長に比して体重が増加し、脂肪が体重の30%以上となった状態を言う。肥満の判定は通常体重によってなされるが、重症患者では必ずしも体重の増加が脂肪の増加によらないことがある。
  肥満の原因は次のように分類されるが、救急医療で重要なのは肥満によるリスクである。肥満によるリスクには次の2つがある。

  1. 肥満であることによるリスク
    1. 循環器系のリスク
        早期よりの動脈硬化→高血圧、冠動脈硬化
        高血圧による左心負荷、横隔膜挙上による心臓の圧迫
        心筋線維間、心外膜の脂肪沈着などにより心機能の予備力がない

    2. 呼吸器系のリスク
        横隔膜挙上による呼吸障害→気管支炎、無気肺、肺炎を合併しやすい
       Pickwick症候群:高度肥満による横隔膜挙上、縦隔内脂肪沈着による呼吸障害で、傾眠・呼吸困難・チアノーゼ・sleep apnea(睡眠時無呼吸)を来す。

    3. 代謝系のリスク
        糖尿病を合併することが多い。

    4. 創傷治癒・感染のリスク
        外傷、手術創の創傷治癒が悪い。糖尿病合併により易感染性。
        呼吸障害により無気肺、肺炎を合併しやすく呼吸器離脱困難

  2. 背景にある基礎疾患によるリスク
      肥満の原因に示す通り、内分泌系の異常を伴うことが多く急性疾患や外傷後の代謝栄養管理においてリスクが高い。

【肥満の原因】

【肥満の原因】
I) 単純性肥満(本態性肥満):  大部分の肥満
過食による必要以上のエネルギーを摂取し脂肪として沈着する。
遺伝的要素が強い。夜食、気晴らし食い、まとめ食いが原因となる。
I) 症候性肥満:  
  1) 内分泌性
    a) 副腎疾患 Cushing症候群:副腎皮質機能亢進(副腎腫瘍、下垂体前葉腫瘍)
顔面・頸部・体幹を中心とした肥満で四肢は細い(中心性肥満central obesity)
    b) 甲状腺疾患 粘液水腫:副甲状腺機能低下
    c) 膵疾患 インスリン分泌過剰症(インスリノーマ)、糖尿病
    d) 性腺疾患 性腺機能低下症、Stein-Leventhal症候群(卵巣多嚢胞症、多毛)
  2) 視床下部性 視床下部の障害による高インスリン血症からLPL活性と脂肪合成が亢進する
視床下部の外傷、炎症、腫瘍によって起こる
Fro:hlich症候群:肥満と性腺機能不全(視床下部の腫瘍、炎症、変性による)
  3) 遺伝性 遺伝性視床下部の障害による
Laurence-Moon-Biedl症候群:(常染色体劣性、肥満、性腺発育障害、
多指症、精神薄弱、網膜色素変性、小人症)
Prader-Willi症候群:(筋緊張低下、知能低下、性腺発育不全、肥満)
  4) 薬物性 副腎皮質ステロイド剤、蛋白同化ステロイド剤、フェノチアジン、
インスリン、シプロヘプタジン

「目のつけどころ」  救急医療では、太字の項目に特に注意を要する。

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<や せ(るいそう)>(emaciation)

  るいそうとは個人が維持している一定の体重が急速に、あるいは徐々に減少する状態で、脂肪量の減少ばかりでなく筋肉量も減少する。肥満同様るいそうも体重の変化から反対されるが、重症患者では必ずしも体重の減少を伴わないことがある。
  るいそうで重要なのは基盤に高度な低栄養状態(malnutrition)があり、侵襲に対する予備力のないことである。るいそうによるリスクとしては、

  • るいそうによるリスク
    • 骨格筋の萎縮減少、貧血、血圧低下、低栄養、低蛋白、浮腫、ビタミン欠乏、免疫能の低下

    などがあげられるが、背景にある基礎疾患は更に深刻である。

    【るいそうの原因】

    【るいそうの原因】
     1) 摂取量の減少 飢餓、嚥下障害(球麻痺)、齲歯、歯槽膿漏、咬合障害(義歯)、
    精神的原因{ 心労、失恋、悲嘆、環境の変化、鬱病、
    神経性食思不振症(anorexia nervosa)、過度のダイエット}
    食欲の減退{悪性腫瘍、感染症、尿毒症、心肺疾患、
    薬剤(甲状腺ホルモン、アンフェタミン(覚醒剤)、麻薬、やせ薬、
    鉛中毒、アルコール依存)、内分泌疾患}
     2) 消化吸収の障害 消化管器質的疾患{腸閉塞、悪性腫瘍、膵疾患、肝胆道疾患、寄生虫}
    吸収不良症候群{celiac病、Gee-Herer病、原発性スプルー、
    特発性脂肪下痢症、腸炎、Whipple病、悪性リンパ腫、アミロイドーシス
    全身性強皮症など)、下剤の乱用
     3) エネルギー消費の増大 甲状腺機能亢進、褐色細胞腫

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  • 参考文献

    1. 内科診断学, 吉利 和, 鈴木 秀郎, 宮下 英夫, 山根 至ニ 編著, 改訂7版, 金芳堂, 京都, 1996. pp36-38, pp213-223.

    2. 主要症候のチャート式診断. 名尾 良憲 編著. 金芳堂, 京都, 1991. pp43-58


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