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身体所見としての体格・体型・栄養

Emergency Nursing 1997;新春増刊号「身体の理学所見」
【栄養アセスメントとしての身体所見】

● 栄養アセスメントとは

  「栄養をとらないと治らない」、「体力がないから手術に耐えられない」など医療の専門家でなくても「栄養状態」が予後を左右することは認識している。では、「栄養状態」とはどのように評価したらよいのか、それが「栄養アセスメント」である。

 栄養アセスメントとは、「個人または集団の栄養状態を客観的に評価すること」であるが、栄養状態を客観的に表現することは決して簡単ではない。栄養障害とは、「特定の、あるいは数種の栄養素が欠乏したり過剰となった状態、また栄養素相互のバランスが崩れた状態」である。栄養状態の変化は身体の一部分だけに起こるとは限らず、また特定の検査値だけから分るものでもないから、種々の方法を総合して評価される。

● なぜ栄養アセスメントが必要なのか

  栄養失調など食料不足と衛生状態の悪い発展途上国での出来事と思ったら大間違いである。入院患者の20〜40%が低栄養状態であり、重症患者を扱う病棟では入院患者のほとんどが何かしらの栄養障害を伴っている。特に低栄養状態の患者が予後が悪いことは古くから知られている。

  低栄養状態(malnutrition)には2つのタイプがある。marasmusとkwashiorkorである。

  1. marasmus(マラスムス)(protien-energy malnutrition)

      長期間の蛋白・エネルギー両者の不足によって起こる。つまり、蛋白合成の原料も少なければ、合成するエネルギーも少なく、細々と耐え忍んでいる状態である。著明な体重減少が見られ、脂肪及び筋肉組織の減少が起こる。その割りには血清アルブミンは正常値を保ち、浮腫も起こらない。飢餓、消化管障害により長期間栄養摂取できない場合(消化器悪性腫瘍など)で良く見られる。神経性食思不振症(anorexia nervosa)などもこのタイプの栄養障害となる。

  2. kwashiorkor(クワシオルコル)(protien malnutrition)

      エネルギーに比して蛋白摂取が不足した状態。つまり、エネルギーはあるけど原料がなくて蛋白が合成できない状態である。したがって、貯蔵エネルギーである脂肪は減らず蓄積され、皮下脂肪は保たれて脂肪肝となることがある。しかし、蛋白は合成できないので低蛋白血症となり浮腫や腹水を伴った状態となる。これは、エネルギー利用と蛋白合成のアンバランスによるもので、種々の侵襲時(敗血症、手術後、外傷後、熱傷後)などにも起こる。こうした侵襲時には、蛋白とエネルギーの供給に問題がなくても、脂肪代謝(酸化が抑制され)や蛋白代謝(合成<崩壊)が障害されることによって低蛋白血症となり浮腫が出現し、体重は不変かむしろ増加してくる。

  いづれにしても、低栄養状態は感染防御能の低下、創傷治癒の遅延、代謝障害をきたし合併症や生命予後の点で不利である。

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● 栄養障害による体型・体格の異常

  栄養障害は種々の体型・体格の変化を起こす。小児期や成長期に栄養障害が続けば体型の変化をきたすが、成人後では栄養障害は体重の変化として現れることが多い。通常、体重が増加すれば「太った」と言われ「栄養が良くなった」と評価されるが、kwashiorkorで示したように、体重だけで栄養状態を評価するわけには行かない。そこで、体重を構成している成分のうち何がどれだけの割合を占めているのかを評価することが必要となる。これが「体組成(body composition)」の考え方であり、栄養アセスメントの重要な要素である。最も基本的な体組成は「体脂肪(body fat:BF)」と「除脂肪体重(fat free mass:FFM)」である。これらを客観的かつ簡便に測定する方法が種々試みられているが、肝腎の重症患者での評価法としては確立されておらず、いろいろはパラメーターから推定しているのが現状である。

● 救急患者の栄養アセスメント

  救急患者で栄養アセスメントを要するのは次の2点である。1) 搬入患者の評価、2) 栄養管理における評価。

  1. 搬入患者の栄養アセスメント

      外傷患者の多くは、受傷までは健康で栄養障害の存在することは少ないが、肥満やるいそうは受傷後の予後を左右する。チェックすべきポイントは3つある。
        1) 「肥満」でないか、2) 「るいそう」でないか、3) 「浮腫」はないか、である。

     1)と2)は身長と体重から評価できるが、3)を見逃さないよう注意を要する。異常があれば、栄養アセスメントの指標をチェックする。予定手術患者では多くの予後判定指数が作られているが、外傷ではそのような指数はまだない。(恐らく外傷では損傷の重症度以外に予後に最も寄与する因子は年齢であろう)

  2. 栄養管理における栄養アセスメント

      栄養管理における栄養アセスメントの目的は主に動的栄養アセスメントである。つまり、栄養投与の量や質を決定し、その効果を評価するためにエネルギー代謝や蛋白代謝の動態を捉えることである。これには体重などの身体計測はあまり役立たない。なぜなら重症患者では体重の変化はほとんどが水分量の変化だからである。しかし、体水分量の変化は侵襲の程度を示していると言う点では重要である。

「目のつけどころ」

  注目すべきは浮腫の有無、注意すべきは体重の変化であろう。

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  体重が増加した場合、それが脂肪で増加したのか脂肪以外(「実」になる部分)が増加したのか、あるいは水(体水分量:total body water)が増加したので栄養学的評価は大きく変わる。そこに身体構成成分(あるいは体組成:body composition)評価の意義がある。最も基本的な分け方は、体脂肪(body fat)と除脂肪体重(fat free mass)の 2 compartment modelである。体脂肪の割合は年齢や性別によって異なるが、日本人成人男性で約15%、女性で約25%である。

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  侵襲時には体液の貯留が起こる。外傷にせよ腹膜炎や敗血症などの感染症にしても、侵襲により血管の透過性が亢進し「非機能的細胞外液(non-functional extracellular fluid:nf-ECF)」として水分が貯留する。重症熱傷や多発外傷ではその量は10L(10kg)以上に達することがある。この間の体重の変化はほとんどが水分の移動である。

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  水分の貯留は生理学的な侵襲の大きさを示している。重症患者の累積水分バランスの最大値は、重症度や予後の指標となるAPACHE-II scoreと良く相関している。

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参考文献

1. 「ビジュアル臨床栄養百科」第2巻. 小学館, 東京, 1996. 武藤泰敏. 栄養アセスメントとは何か.pp8-26, 飯塚政弘、正宗 研. 臨床診査 pp28-33, 山東勤弥.体組成の評価 pp40-68.

2. 主要症候のチャート式診断. 名尾 良憲 編著. 金芳堂, 京都, 1991. pp43-58


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鈴木 宏昌 (dangan@ppp.bekkoame.or.jp)
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