当院で治療可能な疾患は、顔面痙攣、三叉神経痛、特発性水頭症です。これらの疾患についてご説明いたします。
〈顔面痙攣〉
顔面痙攣は、顔面が本人の意思とは関係なくピクピク動いてしまう状態で、眼の周りや口の周りによく起こります。痙攣は一時的なこともありますが、連続的に起こり日常生活に少なからず影響を与えます。痛みはないのですが、人と接する機会が多い人にとっては、顔面痙攣は非常にやっかいなものと感じるようです。また、意思と関係なく動くため違和感もあります。
どうして、このようなことが起こるのでしょうか? まず、知っておいて頂きたいのは、顔面の筋肉は顔面神経という第七番目の脳神経に支配されています。この神経は、脳幹という脊髄と大脳をつなぎ、生命の維持に重要な働きをする部分よりでて、聴神経と一緒に、頭蓋骨内に入り、顔面に出てくるのです。そしてこの神経が、まさに脳幹より出てくる部分で、血管(動脈)により圧迫されて顔面痙攣が起こります。したがって、この圧迫している血管を移動させない限り、痙攣はおさまらないのです(神経血管減圧術=根治的治療法:原因を絶つ)。
当院では、手術療法の他に、ボツリヌス毒素(ボトックス)を使用し、顔面痙攣をコントロールする治療も行っております。これは、詳しくはリンク先のページを見て頂ければよいのですが、筋肉を麻痺させて顔面神経からの異常興奮が伝わらないようにする治療法です。実施は至って簡単で、痙攣を起こしている筋肉に、この毒素を微量注入するだけです(ボットクス治療をする医師は講習を受ける必要があります)。そのため、顔面麻痺が起こり、個人差はありますが、眼瞼が垂れ下がったり、頬が垂れ下がったりすることがあります。しかし、この薬の効果は永続するものではなく、数ヶ月で痙攣が再発するようになります。但し、連用により筋肉の萎縮(筋肉を麻痺をさせるため)が起こり、薬剤効果が切れても若干の麻痺を遺す危険があるといわれています。また、この治療法はまだ保険適応はなく、自費でお願いしております。
また、よく勘違いされるのは、顔面痙攣と顔面神経麻痺です。顔面神経麻痺は、顔面の筋肉に緊張がなくなり弛んでしまった状態で、水を飲むとこぼれてしまうとか、目を閉じられないとかいった症状で発症します。顔が曲がったという表現をする場合もあります。
〈三叉神経痛〉
顔面の知覚は、三叉神経と呼ばれる脳幹より出る神経によって支配されています。この神経の異常興奮が、顔面の鋭い一瞬の痛みとして自覚されるのです。三叉神経はその名の通り三つ又に分かれており、下顎部・頬部・前額部に分布しております。この神経が、頭蓋内で血管(動脈・静脈)に圧迫されたり、 その走行に異常をきたしていると、三叉神経痛が起こります。そのため、実際に手術で圧迫血管を移動、又は、神経の偏移を解除することによって根治することができます。
三叉神経痛は、神経の異常興奮であり、抗てんかん薬であるカルバマゼピン(テグレトール)が、奏効する場合があります。しかし、副作用もあり慎重な投与が必要です(薬物療法)。
〈特発性水頭症〉
多少の呆け症状は、加齢のために起こる場合もありますが、アルツハイマー型痴呆などのように薬剤により進行をくい止められる場合もあります。また、手術により改善する呆けもあります。その一つが水頭症です。この病気は、脳の中に過剰に髄液が貯まり、脳機能を障害するために起こります。
水頭症は、頭部外傷、髄膜炎、クモ膜下出血等に続発して生じることが多いのですが(脳表面の膜の癒着等で、髄液の吸収障害が起こることが考えられる)、時に、何ら明らかな原因がなく起こる特発性水頭症が認められます。
症状は、歩行障害、痴呆症状、尿失禁の3つで、すべてを伴わない場合もあります。進行性の歩行障害で、原因がはっきりしなかった方で、水頭症であった症例もありました。診断は、CTまたはMRIで脳室(脳の中にある髄液が貯まった部分)の拡大を観察することでわかります。 ただ、脳室の拡大は、加齢に伴う脳萎縮でも観察されますので、これが治療を要する脳室の拡大(水頭症)かどうかを判断する必要があります。
確定診断には、入院を要する検査も必要になりますが、脳室拡大があるかどうかは外来での検査でわかります。
〈遷延性意識障害〉
頭のケガや脳卒中などにより脳に重い傷を負った場合、患者さんの意識が数カ月以上もどらない場合があります。このような状態を「遷延性(せんえんせい)意識障害」と言い、一般的には「植物状態」と呼ばれています。日本脳神経外科学会では遷延性意識障害(いわゆる植物状態)を「意思の疎通ができない、自分では移動ができない、話ができない、目で見て理解できない、大小便を失禁する、自分で食事ができない、などの状態が少なくとも3カ月以上続いている場合」と定義しています。このような状態の患者さんに対しては、現在のところ有効な治療法がありません。最近、脊髄(または脳の深部)を電気刺激する方法が有効であるという報告があり、藤田保健衛生大学(愛知県)、日本大学、埼玉医科大学をはじめとした全国の脳神経外科の施設で900~1000例以上に試みられています。帝京大学溝口病院でもこの治療法を数例に試み、効果の見られる場合が出ています。
〈脳脊髄電気刺激療法について〉
この治療法そのものは、痛みのひどい患者さんに行う治療法として健康保険でも認められており、一般的に行われているもので、新しい方法ではありません。しかし、遷延性意識障害の患者さんへの効果は確立されていないので試験的な治療となります。
この治療法を行うには、先ず全身麻酔で手術により、電気刺激用の電極を頸の後ろ側から背骨の中に埋め込み、リード線でジェネレーター(ペースメーカーのようなもの)とつなぎ、ジェネレーターは胸やお腹の皮下に埋め込みます。その後、毎日時間を決めて電気刺激を行います。普通は1日8時間くらいを数ヶ月から数年行います。刺激のON,OFFはプログラマーを使用します。
〈この治療法の費用上の問題点〉
この治療法は、痛みのひどい(慢性難治性疼痛)患者さんに行う治療法としては健康保険が適応されますが、遷延性昏睡の患者さんには保険使用が厚生省から許可されていませんので、私費で行わなければなりません。健康保険では、保険と私費とを混ぜて使用することは法律で禁止されています。従って、この電気刺激装置の埋め込み手術に際してはこの期間のみ別に入院していただき、その間の医療費は全て私費でお支払いいただかなければなりません。この埋め込み手術の入院期間としては、順調にいった場合には5日間位で、この場合の入院費用としては、手術費用(17,000点)など最小限に見積もって総計50万円位となります(2004年11月現在の目安です)。
また、電気刺激装置一式についても、私費でご購入いただく必要があります。取り扱い業者(現在のところパーデック社のみと思います)と直接お話ししてご購入していただきますが、業者の希望小売価格は、刺激用電極リードセット176,000円、埋込型脳・脊髄刺激装置1,400,000円となっています(2004年11月現在の値段です)。
〈この治療法による効果と問題点〉
この治療法で効果が期待できるのは、意識障害治療研究会の報告では、半年から1年以内の、頭部外傷による、比較的若い(30歳代まで)患者さんということになっています。このような効果が期待できる場合でも、この治療法により全ての遷延性意識障害の患者さんが、目をみはるほど良くなるわけではありません。これまでの報告からみますと、「目は開けているが反応はなく言葉も出ない」ような患者さんの半分くらいに、「食事をスプーンなどで与えると口から食べられる」「指示に従って手を握ったり反応するようになる」「意味のある言葉をしゃべるようになる」などの回復がみられるようになります。帝京大学に入院していた患者さんで、非常に効果があった一人の患者さんの場合は、家族がわかるようになり、自分で食べ物を持って食べ、簡単な会話が出来るようになりました。
この治療法の問題点は、全身麻酔による手術にともなう一般的な問題と、機械を体内に埋め込みますので感染がおこる可能性があることです。その他の大きなトラブルについては、報告はないようです。
取扱業者:株式会社 バーデック 電話: 03-3709-3871
FAX: 03-3709-9707
E-mail: birdek@mud.biglobe.ne.jp
使用機材(Medtronic 社):
刺激用電極リードセット(3587A レジュームII リード 四極用)
176,000円
埋込型脳・脊髄刺激装置 1,400,000円
総計 1,576,000円
(価格は2004年4月1日現在)
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