補足解説

視 野

■視野  visual field

図 補 偏心視力 図01 等視力線

視野は,「点を注視した時に(片眼の)見える範囲」であるが,より適切には「視覚の感度分布」「視覚刺激が処理できる視角の大きさ」で,次元的(広さ)次元的(深さ)に表現され,網膜から大脳皮質までの視路に対応する.
中心視力1.0 のとき視線が2°ずれると0.65°ずれると0.3,のように,視野の中では中心視力が最も鋭敏で周辺ほど悪くなる.すなわち中心視野ほど空間分解能が高い.この分布を等高線のように描いたのが測定図である.この等高線がイソプタ isopter(等感度線)である.かつては,等視力線と言った時代があった.そんなことで視力分布は感度分布と理解されている.

視野は中心窩を基準として,計測は視野計にて行う.これには定の背景輝度をセットし固視目標(視線方向)を固定し,視標のサイズと輝度を変化させた白色視標を投影して網膜各部の感度をみるものである.
これにより視野とは,ある部位で認識できる最小輝度(明度の識別閾値)で表わされる視機能,となる.ある部位の方向・位置は固視点を基準として角度 degrees で表現し,被検者から見る位置関係で記載する.

感度といえば,明るさへの順応 により左右されるのは周知の通り.よって,般に視野は明順応状態(背景輝度 31.6 asb)で測定する.
(詳しい話は 視能生理学・神経眼科学の講義を!)

1.周辺視野
測定装置を perimeter という.この視野測定を perimetry という. 図02 Kinetic_Static

①動的量的視野視標の大きさや輝度を定にして,見えないところ(通常は周辺から)から見えるところ(固視点,通常は中心)に向かって動かし,各方向でその視標が見えた位置をつないでいく.等感度(isopter)を示す範囲が知れる.

②静的量的視野視標の位置を固定し,視標の輝度を変えてその視標が見える閾値を測る.断面での感度の深さ(profile)を知る.

2.中心視野
測定装置を campimeterという.この視野測定が campimetryである.30°以内での視野計測に重要である.
黒板視野(tangent screen またはBjerrum平面視野計)を用いる.しかし最近は HFA の出番のようである.

3.自動視野計
Humphrey視野計(HFA:Humphrey field analyzer),など.
HFA は静的自動視野計のスタンダードになっている.黄斑,10°以内,24°または30°以内,3060°60°の他,半盲などのプログラムがある.現実には緑内障のスクリーニングや経過観察が主 ??

4.チャート式
中心暗点計(河本式,Amslercharts,そのた)
Amslerチャートは黄斑疾患による視覚障害に有用であるが,いずれにしても有効に検出するには少々のコツがいる.

5.フリッカ
定量視野は輝度(明度)識別能 luminance discriminationを対象として計測している.
フリッカ視野 は時間分解能 temporal resolusionが対象となる.

6.評価
(動的)視野計測のスタンダードは Goldmann視野計に拠る.視標サイズは最大サイズの「isopterと最小サイズの「isopter般的である.
絶対暗点はⅤ4視標(最大・最高輝度1000asb)がみえない時をいう.半盲狭窄は Ⅴ/4視標による欠損部位や欠損形態で判定する(内部イソプタが必要なときも少なくないが).内部イソプタでⅠ視標により沈下相対暗点を判定する.
なお身体障害に関する視野はⅠ/4による周辺視野,Ⅰ/2による中心視野が条件になっている.

※注:ローマ数字です.

7.影響する因子

ⅰ.明順応レベル

ⅱ.瞳孔径
 散瞳:入射光量が増え順応状態が変わり,感度が下がる.特に内部イソプタが縮小.
 縮瞳:視標輝度が下がり,感度が下がる.散瞳よりも顕著だとか.

ⅲ.水晶体
 混濁:感度低下に因る求心性狭窄,散乱に因るコントラスト低下

ⅳ.屈折
 錯乱円 diffusion circleのため刺激強度が減少.

ⅴ.

■視野検査, Mariotte盲点

視野は,眼を動かさずに見える範囲ということになる.眼を動かして見える(眼が向けられる)範囲を,視界(注視野)という.
ただし注視野は,眼球運動範囲に意味がある.

■視野異常を疑う患者の訴え(引用:眼科2003年10月臨時増刊号)

中心視野が障害された場合周辺視野が障害された場合
中心暗点に伴う訴え視野障害部位に伴う訴え
中心が見えにくい.ある方向が見えにくい(上下左右)
見ようとするところが見えない,かすむ.上からあるいは下から膜がかかってきた.
見たいところが消える.暗い膜のような物,ゆらゆらした物が降りてきた.
人の顔が見えない.端のほうでちらちら,ちかちかする.
鼻の部分,あるいはそのまわりが見えない.見える範囲が狭くなった.
真ん中に膜が張ったように見える.視野障害に伴う行動制限の訴え
暗く見える,灰色に見える.人や物にぶつかりやすくなった.
色がわかりにくい.車を運転していて横から出てきた物が見えない.
ちらちら,ちかちかする.夜盲に伴う訴え
黄斑疾患の変視に伴う訴え暗いところで物が見えにくくなった.
線がゆがんで見える.暗いところで歩行できない.
人の顔がゆがんで見える.
視力低下による両眼視機能の低下に伴う訴え
遠近感がわからない.
物をつかみにくい.
視野障害に伴う行動制限の訴え
人や物にぶつかりやすくなった.
車が運転できない.

■疾患から見た視野障害の典型

A.眼局所ではいろいろ.当然,罹患側で(片眼性)
  病変に応じた不規則な狭窄網膜剥離・網膜動脈分枝閉塞
中心暗点(変視症,小視症を伴う黄斑変性・中心性網膜炎
輪状暗点・求心性狭窄(夜盲を伴う網膜色素変性
  
B.視神経乳頭部では
Mariotte盲点の拡大うっ血乳頭が典型.(初期は)中心暗点はないことで視力は良好である.
頭蓋内圧亢進は脳腫瘍,水頭症,悪性高血圧などで
神経線維束欠損型視野いわゆる緑内障性視野障害,前部虚血性視神経症,視神経低形成,などで.
網膜耳側病変では鼻側視野において水平経線に致する異常が認められるが,鼻側病変ではMariotte盲点から連続する楔状の視野異常となる.すなわち,網膜内の神経線維走行パターンに従う.
水平性半盲,弓状暗点,など虚血性視神経症で
  
C.視神経の障害では黄斑線維の異常では中心暗点.そのた,弓状暗点,孤立暗点,周辺部全域の感度低下,水平半盲となる.当然,罹患側で(片眼性)
盲点中心暗点(石津暗点)視神経炎で.
視力低下,中心フリッカー値の低下のほか,Riddoch現象を認めることがある.
いろいろ鼻性視神経症
  
D.視交叉の障害では基本的に耳側半盲(異名半盲)である.また,視神経部と合わせて視力障害を伴う.初期には中心やそれに近い部分に小さい暗点(感度低下)が複数現われ,拡大融合して半盲性暗点に進行する.周辺に広がると半盲が完成する.
ごくまれに鼻側半盲が生じるが,この場合緑内障の確率のほうが高いとされる.ほかに循環障害(動脈閉塞性病変)で発症.
  • 視交叉の前~下方よりの圧迫では両耳側性上四分の半盲

  • 視交叉の後~上方よりの圧迫では両耳側性下四分の半盲

  • 外側からの圧迫では同側接合部暗点+対側四分の半盲

接合部暗点(連合暗点視神経と視交叉の接合部障害.鞍結節髄膜腫で. junction scotoma など】
両耳側半盲下垂体腫瘍
(Goldmann視野計では,初期には内部イソプターの半盲から始まる.
  • 下垂体腺腫は中央部で圧迫するので,左右差の少ない両耳側半盲となる.

  • 髄膜腫は偏り(左右差)が大きい.

両鼻側半盲視交叉両外側の圧迫 ・・ まれ

視交叉症候群視交叉部障害による両耳側視野欠損を基本として視神経萎縮,下垂体障害を特徴とする症候群.

  
E.視索の障害では視交叉より後ろの障害は,反対側の同名半盲である.
左右不(非調和性)の同名半盲
  • 頭蓋咽頭腫は視交叉後部の圧迫をきたし,比較的大きな左右差(非調和性)を生じる.

視索症候群視索障害による同名性視野欠損を基本として視神経萎縮.

  
F.外側膝状体の障害では同名性楔状欠損  ⑤
  
G.視放腺の障害では視放線では,下方視野の線維と上方視野の線維は各々広がって後頭葉に至る.上方視野線維と下方視野線維とで走行経路  視覚領到達部位の特徴から,四分の半盲が生じる所以となっている.後頭葉皮質に近いほど左右眼の視野異常の形が揃う傾向にある.
側頭葉内(あるいはMeyerループ)
 の障害では
上方の(同名)四分の半盲(非調和性)  ⑥
頭頂葉内(あるいはBaumループ)
 の障害では
下方の(同名)四分の半盲(非調和性)  ⑦
後頭葉に近いと黄斑分割を伴う同名半盲(調和性  ⑧
  
H.後頭葉の障害では障害部位に対応した黄斑回避のある(調和性)同名半盲あるいは同名半盲性の暗点を生じる.
最も多いのは循環障害(動脈閉塞性病変≒脳梗塞)である.そのほか,腫瘍,中毒,外傷,など.
耳側半月の保存後頭葉深部  ⑩
同名性傍中心暗点
(同名半盲性の暗点
特に,鳥距溝領域~後頭葉先端部で  ⑪
耳側半月の欠損後頭葉最深部  ⑫
  
I.閃輝暗点過性で境界がギザギザになるのが典型.両眼性,ときに片眼性.
眼性片頭痛と同義
  
J.心因性反応管状視野・らせん状視野(抑制あるいは疲労現象
時に求心性視野狭窄(中枢性抑制)
図 補 図09 視路障害

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Traquairトラケアの島

図 補

■経線の

a)水平経線:乳頭部,Mayer loop部,Baum loop部,後頭葉V1V2病変
b)垂直経線:視交叉以降 ときに緑内障(vertical step)

図 補

■黄斑回避と中心窩回避

黄斑回避とは,(同名)半盲時に固視点部は欠損せずに両眼とも残ること.黄斑線維が後頭葉の広範囲に投影されており完全には障害されることは少ないため,あるいは血液循環上,左右両側の合流があり完全な循環障害が起きにくいとも(後頭葉性視野障害の主原因は血管障害)いわれる.広く視放線病変の所見としてとらえるべき,という.

中心窩回避は,両側支配であるためと説明される.
中心窩線維については径3°の範囲を,黄斑線維については径10°の範囲を指す.
傍中心暗点性半盲の説明にもなる.が,しかぁ~し,臨床的に区別する機会や如何に!

■左右の致性 congruity(調和性・非調和性)

同名半盲で,半盲のかたちが大きく致しない時,非調和性 incongruousという.視索・外側膝状体・視放線前半の病変を示す.
半盲のかたちがおおよそ致するとき,調和性 congruousという.後頭葉病変を示す.皮質に近づくほど左右の神経線維が揃うためと説明される.

■後頭葉皮質障害による視覚異常

患者が 眼が見えにくいと言ったら後頭葉の病変も考える.
皮質盲両側後頭葉の障害により,視覚が失われた状態.患者は全く物が見えないと訴える時と,見えていないことを自覚しない時(Anton徴候=見えていないのに自覚せず,問われると否定する)がある.眼底は正常,対光反射は正常に保たれ,随意的な眼球運動も正常であるが,ものが視覚で認知できない.視運動性眼振は消失する.
幻視外界の視覚刺激によらない映像の認知.光が見える(閃輝暗点とは違う意味合いで),風景が見える,など.
錯視外界の視覚刺激の歪んだ認識.大視症,小視症,色視症,色盲.など
閃輝暗点光視症としての概念のほうが妥当かもしれない.

RiddochZappia現象

般に,静止した指標よりも動く視標のほうが見えやすい. Riddoch リドック  現象は,静的視野と動的視野の乖離()現象をいい,同じ視標でも静止していると反応しないが動かすと反応することで,静的視野と比べて動的視野のほうが広い(反応とは見えたという視野検査時の被検者のリアクション).
静止した視標は見えず動く視標は見えるということは,動的視野で周辺のisopterが正常でも静的視野の閾値測定では上昇(感度低下)がみられることで,静的視野のほうが異常を検出しやすいということになる.これらにより,軽度な視野障害は静的測定で,重度の視野障害は動的測定で記録する対応が勧められる.

視神経を含む視路損傷一般で現れうる.視神経障害での発現は,動く視標に関する M細胞系(Y線維) よりも形態や色覚に関する P細胞系(X線維) の機能のほうが早く侵されることから (M·P系については こちら).または,
視野障害の領域でも均等に障害されるのではなく閾値が凸凹になっており,動的視標では感度の良い部分が刺激される率が多くなるのに対し,静的指標では刺激されにくいため反応しない,とも説明される (寄せ集め現象)

盲視現象後頭葉・頭頂葉付近の大脳皮質が高度に障害された時,欠損視野に加えられた刺激を認知はできないが,定位ができたりすること. 網膜-上丘-視床枕核-有線前野,Y線維(M細胞系)の関与による(膝状体外系)

■視空間失認あるいは半側空間無視

失認 agnosiaとは病識の欠如のこと.
視覚失認は視力は正常であるが,まとまった形をした物の視覚性認識ができない状態.
無視 neglectとは半側視野に対する注意力の減退,無関心.同名半盲に伴うことが多い.
そのた,地誌的失見当,視覚失調,など.

■視覚失認

失認は,ある感覚を介して対象物を認知することができない状態である.視覚,聴覚,触覚などそれぞれに失認がありうる.
視力・視野が正常であるにもかかわらず視覚認識に異常が起こるのが,視覚失認である.
物品を実際に見せて,あるいは物品などが描かれた図を患者に見せて,その物品が何であるか言わせる.もし言えない場合は,身振りなどでその使用法を示せるかどうか,またその物品を関連した物品を選べるかどうかを調べる.視覚失認ではこれらに障害がある.
・物体失認見慣れたものでも,何であるか分からない.
・同時失認絵を見て全体の内容が理解できない.
・相貌失認顔の識別ができないが,声で判別できる.
・色彩失認色の区別ができない.
・純粋失読字は書けるが,書いた字が読めない.
など,など

名称が言えない場合,失語との鑑別が重要である.失語では物品の同定はできるため,たとえ名称が言えなくてもその物品の使用方法を示すことができる.しかし視覚失認の場合,それが何であるか同定できないため,その物品の使用方法を示すことができない.視覚失認では,視覚以外の感覚情報を介してその物品の名称を言うことができる.他のモダリティ(例えば触覚)を用いれば正答できることを示す.すなわちその物品が出す音や,その物品の手触りなどで名称を言うことができる.

高度の視力・視野の障害が存在する場合にも「見てわからない物体を触るとわかる」ことがある.視覚失認ではLandolt環で調べると視力は保たれている(字が読めなかったりする)
視覚失認はさらに統覚型失認・連合型失認とに分類できる.いずれの型の視覚失認でも,要素的な知覚や形態の知覚が保たれている.前者はそれらの情報を形態に統することに障害がある状態と考えられており,後者は視覚的な情報を形態に統することは可能であるが,対象物が何であるか認知できない状態と考えられている.線画の模写を施行するとこのつの型の失認が鑑別できる.Lissauerの考えに従えば,線画の模写が可能であれば統覚型失認であり,不可能であれば連合型失認となる.

視覚失認は統覚型と連合型とで原因疾患が異なるといわれている.統覚型失認の患者は,CO中毒,水銀中毒,外傷による報告が多く,病変は後頭葉を中心として,びまん性に脳の後部が障害されていると報告されている.また,連合型視覚失認の責任病巣は,側頭後頭接合部の下部の両側性損傷であり,後大脳動脈領域の脳血管障害による報告が多い.同部位の側性病変での報告もある.

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