網膜視細胞に与えられた光刺激は,視神経を経て大脳後頭葉に達して初めて視覚を生じる.従って,この経路のいずれかの障害部位に応じて特有の視野障害が生じる.「視野異常」には,狭窄,暗点,欠損がある.
☆視 野 visual field / Gesichtsfeld
視野とは,視覚の感度分布である.正常な両眼視では,片眼で認識する領域と左右眼で合成して認識する領域がある.
F:fixation
M:Mariotte
視野は,片眼ずつ評価する.
◎視野 ☞☞ 【 確認と追加説明 】
■視野異常
視野異常は,網膜から視神経,外側膝状体,視放線,後頭葉皮質に至るいずれの部位のニューロン障害(視路障害)に於いても起こり,その障害パターンから原因疾患を推定することになる.
Ⅰ)暗点 scotoma → 視野の中で限局性に(部分的に孤立して)視感度が低下している,あるいは感度がない部位がある.
程度によって
比較暗点 relative scotoma:視感度の低下状態.
絶対暗点 absolute scotoma:全く感度がない状態.絶対暗点は通常
自覚によって
実性暗点:暗点部分が“暗い”・“黒く見えにくい”などと自覚されるもの.
基本的に網膜疾患で生じる.
虚性暗点:暗点部分は“砂をまいた様に見えない”・“消える”などと自覚され,明るさ・色覚が変調するが,“黒っぽい”という感覚は起きない.
基本的に視神経疾患で生じる.検査によって検出される状態(Mariotte盲点,Bjerrum暗点,など)を含む.
部位によって
中心暗点 central scotoma:固視点を含む暗点.
中心性漿液性脈絡網膜症が多く,加齢黄斑変性も増加している.他の種々の黄斑部疾患,視神経炎で認める.
中枢性の場合も否定できない,とか.
♡ 多くが後天色覚異常を来たす.color scotomaである.
♪ 網脈絡膜病変では,変視症を伴うことが少なくない.
傍中心暗点 paracentral scotoma:緑内障 など
盲点中心暗点 cecocentral scotoma:Mariotte盲点を含む暗点.
球後視神経炎に特徴的
Bjerrum 暗点:盲点から耳側縫線部までのの弓状暗点.Bjerrum 領域の孤立暗点を指すことも ??
Bjerrum 領域は固視点から20〜25°の範囲.緑内障の初期で特徴的
盲点の拡大:Mariotte盲点の異常すなわち視神経病変
輪状暗点:網膜色素変性,緑内障(Rønne階段:縫線部で段差がみられる輪状暗点)
そのた,網膜静脈分枝閉塞による弓状暗点,...
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穿破 : 病変の進行のため暗点より周辺のイソプタ部が内側に記録されるようになり(暗点の露出),最終的に最大イソプタが暗点の内部に入ってしまい暗点より周辺にイソプタが出ない状態(視野欠損の進行).
Ⅱ)狭窄 contraction → 視野の範囲が狭くなる状態.
視野中心部のみが残存する求心性視野狭窄や,視野が不規則に狭くなる不規則性狭窄がある.そのうち,欠損が中心から扇型に周辺部まで広がるものを扇型(切痕状 または
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①求心性視野狭窄:網膜色素変性や緑内障の末期に多い.また視神経萎縮,広範な脳梗塞,心因反応でも認める.稀に視神経症,両側の後頭葉皮質の障害(水俣病など).
②不規則性狭窄:網膜剝離など網膜疾患に多い.扇型(切痕状)欠損は頻度的には緑内障中期,および網膜静脈分枝閉塞が多い.網膜動脈分枝閉塞,乳頭周囲網脈絡膜症,網膜分離症,多発性硬化症の視神経炎でも認める.
狭窄の特殊形
心因反応 mental disorders 心因性視覚障害(身体表現性障害)では特異的な異常が検出されることがあり,診断的価値がある.螺旋状視野,管状視野,求心性狭窄,水玉状視野(HFA)など,矛盾のある結果となる.視野測定時に注意が視標に集中しすぎて視野の異常が生じる,と説明される.
時に,詐病・仮病 malingeringを疑うこともある.
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Ⅲ)欠損 visual field loss → 見えない部分がある状態.暗点・狭窄のほか,代表は半盲である.
⭙半盲 hemianopia,hemianopsia : 固視点を通る垂直,あるいは水平線を境として視野が障害された状態.
経線(meridian;子午線)に一致する異常を示す.これらは,基本的に視路障害を表わす.
両眼の半側つまり左右いずれかの同じ側に半盲をきたす同名半盲,両側の耳側あるいは鼻側が障害される異名半盲,上側あるいは下側が障害される水平半盲がある.ときに四分の一盲となる.
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⭙調和性・非調和性 congruous・incongruous : 視野欠損の左右一致度
原則として,皮質近傍の病変ほど左右一致度は高く,視索病変で最も左右一致度が低い.
①異名半盲:異側性 heteronymous.
両耳側半盲は,視交叉における交叉線維の障害で起こる.下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫,鞍結節髄膜腫,異所性松果体腫,視交叉神経膠腫などで認める.
両鼻側半盲は,非交叉線維の障害.頻度は少ないが,empty sella症候群,脳動脈瘤などで認める.
▣ 視交叉症候群).
②同名半盲:同側性 homonymous.
解剖学的に視交叉よりも視中枢側(視索,外側膝状体,視放線,視中枢)の障害で反対側の同名半盲が起こる.原因として,梗塞,出血,腫瘍などがある.
▣ 視索症候群).
▣ 中心性同名半盲(同名性傍中心暗点);鳥距溝領域(特に,後方・先端部)
③水平半盲:視神経外傷や虚血性視神経症など視神経の循環障害で認める.そのた,Meyer係蹄部,後頭葉の病変による.
④四分の一盲(四半盲):
▣ 上四分の一盲:側頭葉(Meyer係蹄部による),下鳥距皮質
▣ 下四分の一盲:頭頂葉(Baum係蹄部による),上鳥距皮質
⑤外側膝状体部
Ⅳ)沈下 depression → 山の高さが低くなった状態.地平線に達すると欠損となる.
▣ 部分的 : 欠損に至る以前の軽度な障害.
▣ 全体的抑制 : 視野全域の感度が低下した状態.おもに透光体混濁で.
■視路障害
【
視路の復習】
病変部位を考える時,次のような分け方ができる.
①網膜病変
②乳頭部病変
③視神経病変 ・・・ 右図 1
④視交叉病変 ・・・ 2
⑤視索病変 ・・・・ 3
⑥外側膝状体
⑦視放線 ・・・・・ 4~5
⑧後頭皮質 ・・・・ 6~7
■虚性暗点と補完知覚
Mariotte盲点など視神経あるいはそれより後ろの障害では,視野異常を自覚しないことが多い(虚性暗点など,半盲も然り).視野の一部が見えないのであるから,見えない部分は真っ黒になっていると思われがちであるが,実際はその周囲の見えている部分の延長として,周りの続きのように視野情報を補完・充填して認識される.視中枢の仕業とのことである.
■加齢変化
周辺視野(最大イソプタ)はほとんど変わらないが,中間部分での沈下が認められる.
実生活では注意力・認識力の減退によって,有効な視野は狭窄している.
2022