どんな病気か / 症状 / 検査と診断 / 治療 / 予後

手術:
 乳頭癌,濾胞癌、髄様癌では、手術で腫瘍を含めた甲状腺の切除とリンパ腺の切除が行われます。私たちの手術は一般に行われている手術より首の傷の長さは短く、かつ癌組織やリンパ腺は可能な限り切除し、かつ癌の根冶性も高くします。手術は全身麻酔で、約5日から10日の入院が必要です。しかし、手術の翌日から歩行,食事摂取などは可能で、退院翌日から仕事、家事などはしていただきます。
 乳頭癌,濾胞癌で腫瘍が小さいときには私たちのグループでは可能な限り「低侵襲性甲状腺切除術」を行っています。「小切開甲状腺切除術」が普通で、場合によっては「内視鏡下甲状腺切除術」で行うこともあります。
 小切開甲状腺切除術では首の3−4cmの傷(一般に行われている手術の半分から3分の1の長さ)で、首の横(側頸部)のリンパ腺まで取り除くことが可能です。手術による剥離面積が少ないため、通常の手術でおこる手術後の疼痛、不快感などは著しく減少し、患者様にとって退院後の首の違和感、はった感じ、硬くなった感じ、肩こりなどからも開放されます。
しかし、進行した癌では癌の根治性を目指して、甲状腺全摘や拡大頸部郭清などの大きな手術を行うこともあります。そのような場合には、気管形成、筋肉切除などが行われることもあります。しかし、可能な限り侵襲には気を配り患者様の術後のQOLを考えております。
 手術の合併症(手術による障害)は主に2つあります。第1は、甲状腺の背面を通っている反回神経麻痺による嗄声(させい、しわがれ声)の可能性です。この反回神経は甲状腺に密着しているため、甲状腺切除に際し軽度の手術的侵襲を受けただけでも軽い嗄声がおこります。特に進行した甲状腺癌では反回神経に浸潤していることがあります。そのときには一部を削ったり、切離しなくてはなりません。嗄声や誤飲が起きた場合にはビタミンB12剤を飲んでいただきます。多くの方は手術後、3ヵ月程度で嗄声はほぼ改善します(誤飲はもっと早く治ります)が、反回神経を切離せざるを得なかった場合には永続的に続くこともあります。
 その第2は、甲状腺の背面にある副甲状腺(甲状腺の後に4個ついている)が甲状腺切除と一緒に摘出されるため、手術後に一時的に血中カルシウム値が低下することがあります。その症状は口唇、手指がしびれたり、こわばったりすることです。また、胸が苦しくなるような症状もあります。いずれにしても、今まで経験したことのない症状です。特に、進行した癌では甲状腺全摘、亜全摘を行うのでおこりやすいです。これはカルシウム剤を注射、あるいは内服すれば消失します。1−2週間以内で薬を飲む必要がなくなることもありますが、多くは永続的にカルシウム剤とビタミンD3を内服していただきます。
 その他の合併症として、その他の神経損傷、リンパ漏(胸管損傷)、出血(血腫)などが考えられます。

甲状腺ホルモン療法:甲状腺ホルモン剤(チラージンS)は癌細胞の増殖を抑える働きがあるといわれていますので,予防的にチラージンSを術後長期にわたり内服(1-3錠)していただきます。

放射線治療・化学療法:進行乳頭癌,濾胞癌で、肺などに転移している場合、あるいは転移している可能性が強い場合では、甲状腺を全部摘出したあとに131Iという放射性ヨードの大量療法を行うことがあります。このときには放射線科にて3-5日間入院していただきます。放射性ヨードが癌細胞に取り込まれて癌細胞を破壊してくれることがあります。また、未分化癌,悪性リンパ腫の場合では、手術よりも放射線治療(リニアック照射)、化学療法(抗がん剤投与)を優先します。

予後:
 甲状腺癌の約95%を占める乳頭癌,濾胞癌の多くは、発育がきわめてゆっくりで、進行してない場合は手術してから5?10年経っても再発することは少ないです。また,髄様癌も遺伝性では腫瘍ができる前に遺伝子検査をして、保因者であれば早期に甲状腺手術を受けることで再発はしません。
 このように、甲状腺癌の多くは癌といっても予後は良好で,かつ手術による機能障害も少ないので、勇気と希望をもって治療を受け、早く日常生活に復帰して元気になってください。