どんな病気か / 症状 / 検査と診断 / 治療 / 予後

甲状腺悪性腫瘍(がん)

どんな病気か:
 甲状腺悪性腫瘍には乳頭癌、濾胞癌、未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫といった種類の悪性腫瘍があります。このなかでは、発育の遅い乳頭癌が約85%と圧倒的に多くを占めています。ついで,濾胞癌が約9%で、残りの癌はまれです。甲状腺癌は他の癌と比べ、若い人にも多いのが特徴で、乳頭癌,濾胞癌は40歳代が最も多く、ついで30歳代、20歳代の順になっていて、10歳代に発生することもあります。女性が圧倒的に多くなっています。まれにしかみられませんが、きわめて予後の悪い(たちの悪い)未分化癌は50歳以上の人に多く、男女ほぼ同数です。髄様癌は遺伝性(家族性)のものが約30%にみられます。

症状:
 きわだった症状は現われません。しかし、進行するとのどに圧迫感があったり、声がかすれたり、気管・食道などに浸潤することもあります。また、濾胞癌では骨や肺に転移することもあります。未分化癌では、呼吸困難、ものを飲み込みにくい、体重が減る、疲れやすいなどの全身症状もでてきます。悪性リンパ腫では急激に甲状腺腫が増大し、橋本病の経過中に発生するものが多いです。未分化癌と違い全身症状に乏しいのが特徴です。

検査と診断:
 甲状腺のはたらきは正常なので、血液中の甲状腺ホルモン値は正常です。その他の血液の検査でも異常がみられることはほとんどありませんが、未分化癌の場合は、白血球数の増加と血沈の亢進がみられます。
 ここで大事なことは、1)良性腫瘍か悪性腫瘍かを鑑別、2)悪性腫瘍でもどの種類の悪性腫瘍かを鑑別することです。それには
「良性腫瘍」のところでお話しましたのと同じで,超音波検査穿刺吸引細胞診が最も重要です。そのほかに、状況によってはシンチグラム、CT検査、MRI検査、食道造影、気管支鏡検査なども行います。

 超音波検査はすでに「良性腫瘍」のところで書いていますので写真などはそちらを見てください。非常に優れもので、患者様に優しい検査機器です。発生頻度の多い乳頭癌では、癌の形状は不整,内部エコーは不均一、ときに砂粒状の石灰化象がみられます。穿刺吸引細胞診は首から甲状腺に針を刺して、腫瘍のごく一部の細胞を採取し、顕微鏡で細胞が良性か悪性かを診断します。外来で簡単に行え、苦痛もほとんどありません。乳頭癌では核内細胞質封入体,核の溝,すりガラス状核,大型の腫瘍細胞が乳頭状に密に重積し配列しており、乳頭癌ではこの穿刺吸引細胞診でほぼ診断可能です。

 血液検査では良性,悪性を鑑別することはできません。たとえば、血中サイログロブリンが増加することで腫瘍が存在することは分かっても、良性か悪性かを診断することはできません。特殊な例として,甲状腺髄様癌では、血液中のカルシトニンやCEAが異常高値を示し,髄様癌と確実に診断できます。また,髄様癌の約30%の症例は遺伝性(家族性)に発生しますので,血液中のRET癌遺伝子を検査することで、腫瘍ができる前に診断できます。このように遺伝性の髄様癌は早期にきちんと手術をすれば確実に治り、手術による後遺症も殆んどありませんので推奨される検査といえます。もちろん,個人の遺伝情報などのプライバシーや秘密は厳守されています。