腎性副甲状腺機能亢進症その1

 

腎性副甲状腺機能亢進症について

 長期透析患者様の腎性副甲状腺機能亢進症は、腎性骨異栄養症(線維性骨炎など)のみならず、血管石灰化などにより心筋梗塞、動脈硬化などの心血管の合併症をひきおこします。これらは生命予後や(生活の質)QOLに大きな影響を与える重篤な症状です。
この腎性副甲状腺機能亢進症に対する治療法として、経口ビタミンD製剤、ビタミンDアナログ静注製剤、リン吸着剤などが開発され、内科的治療は進歩してきました。それでも、高度に進行した腎性副甲状腺機能亢進症は内科的治療では効果がなく、手術や超音波局所注入療法が必要となります。この超音波下の局所注入療法は腫大した副甲状腺腫にエタノール(PEIT)やビタミンD剤などを注入するものです。しかし、私たちの経験ではこの方法は再発などが多いため治療効果が少なく、反対に疼痛や頻回の注入で患者様のQOL(生活の質)を損なう可能性があり、手術ができないような患者様に限られると考えております。   
  一方、手術は従来大きな皮膚切開創と手術野で行われてきたため、手術後の疼痛や苦痛、皮膚切開創の傷跡、瘢痕などが気になり、入院期間も長く、手術後も手術の影響が長期にわたるため、患者様、ご家族、透析センターの医師たちにとって大きな決意を必要としたものです。しかし、当院の内分泌外科では「低侵襲性手術」を行っており、この手術方法は日本はもとより世界でも屈指の手術方法であると高く評価されています。この低侵襲性手術とは、皮膚切開創は約3cm、皮弁は作製しない、筋肉は切離しないなど、手術野の組織,筋肉などの剥離をできるだけ小さくすることで、手術後の疼痛、苦痛、違和感などを最少にし、患者様のQOLを可能な限り高めるように努めた術式です。手術後しばらくしますと頸部の症状が殆んどなくなってしまい、傷口も小さいため、患者様は手術したことを忘れてしまうことがしばしばあります。
 この腎性副甲状腺機能亢進症は適切な時期に優れた手術を受ければ、QOLの高い日常生活を送ることができます。しかし、残念なことに日本ではこの副甲状腺の手術を専門にしている施設が少ないのが現状です。わたしたちは、このような現状にあって副甲状腺外科を専門にしており、透析センターの先生方と相談し、さらに高い診療レベルを追求するため、技術、医学の向上に努めております。


1) 副甲状腺とは

副甲状腺の位置と数
 副甲状腺は甲状腺の後ろにあります。甲状腺は首の気管の前で、いわゆる“のどぼとけ”の下にあります。蝶々のような形をして、大きさは3cm、重さは約16g程度です。正常の甲状腺は軟らかく薄いため、触っても触れません。副甲状腺は甲状腺の後ろに左右2個ずつ、計4個あり、ウニに似た色をした楕円形で米粒より小さなものです。1個の重さは約30mgであり、非常に小さく、かつ甲状腺の後ろにあるため、手術のときには見つけにくいわけです。ですから、副甲状腺外科の専門医の存在感があるわけです。誰でも手術でき、その手術結果が大きく違わない手術では専門医の存在感がないのは誰にでもお分かりになると思います。


甲状腺の背面からみたところ

甲状腺の右側よりみたところ
(矢印が副甲状腺を示している。
分かりやすくするため、正常の副甲状腺より大きく描いた)

 

副甲状腺ホルモンの働き
 副甲状腺は84個のアミノ酸からなる副甲状腺ホルモン(PTH)を産生し、分泌します。このPTHは骨、腎、小腸に作用し、カルシウム濃度を調節します。骨では骨吸収促進など、腎ではカルシウムの再吸収促進など、小腸ではビタミンD3によるカルシウム吸収促進、などが行われます.これらの作用により血中カルシウム濃度は一定に保たれていますが、副甲状腺機能亢進症ではこの機構が壊れてしまうわけです。

 

副甲状腺の病気について

その2