腎性副甲状腺機能亢進症その3

 

2.腎性副甲状腺機能亢進症(つづき)

手術と予後
  副甲状腺手術は4個の腫大した副甲状腺をすべて摘出し、そのうちの40-60mgを首や腕に移植します。
 手術は全身麻酔で、手術時間は2時間程度で終了します。午前の手術では昼までに病棟に戻ります。約1週間の入院ですみます。ご家族の付き添いは不要です。手術翌日から歩行、食事などができ、ほぼ、普通の日常生活に戻ります。また、退院の翌日からは全く普通の生活(仕事)ができます。

 手術後の注意点と合併症(手術による障害)は主に2つあります。その第1は、手術により腫大した副甲状腺腫をとったため、手術後2―4日目に一時的に血中カルシウム値が低下します。その症状は口唇、手指がしびれたり、こわばったりすることです。また、胸が苦しくなるような症状もあります。いずれにしても、今まで経験したことのない症状です。もしおきたときにはカルシウム剤を注射、あるいは内服すればすぐに消失し、心配することはまったくありません。これは手術により副甲状腺ホルモンが正常となり、血液中のカルシウムが骨にとりこまれるためにおきるもので合併症ではありません。ご自身の骨が回復している証です。
 第2は、甲状腺の背面を通り、副甲状腺腫に接している反回神経麻痺による嗄声(させい、しわがれ声)です。この反回神経は副甲状腺のごく近くを通るため、副甲状腺腫摘出に際し軽度の手術的侵襲を受けただけでも軽い嗄声がおこります。また、近くにあるため副甲状腺腫が浸潤していることもあります。そのときには一部を削ったり、切離しなくてはなりません。通常は、嗄声に対してビタミンB12剤を飲んでいただきます。多くの方は手術の後、3ヵ月程度で嗄声はほぼ改善します。また、嗄声の症状が強いときには誤飲もおこることがありますが早く改善します。しかし、腫瘤の部位によっては反回神経を切離しなくてはならないことがたまにあり、このような方は嗄声は改善方向には向かいますが、完治できないことがあります。もし、両側の反回神経を切離しなくてはならないときには、声帯が正中固定されるため呼吸困難になり緊急の気管切開が必要となります。

 退院時、透析センターで透析を受けるまでの期間に低カルシウム血症にならないようにカルシウム剤、活性型ビタミンD3剤を処方いたします。また、傷がきれいになるお薬を処方することもあります。
 しかし、術後の管理は原則として透析センターにお願いしてありますので、透析センターの先生の指示を受けてください。私たちの外来へは術後1,2,3,6ヵ月,1年目程度の受診でよく、手術のことを忘れてしまう方がほとんどです。
 手術後、不快な筋肉痛、精神神経症状、骨・関節痛、血管の石灰化などの症状は改善傾向を示します。血中カルシウム・リン値は低下し、副甲状腺ホルモン値も正常にむかいます。
 ただ、治療が遅れると、骨病変、心血管病変、筋肉・精神神経病変が進行し、手術しても改善しない(不可逆性)状態になりますのでご注意ください。



術前の血管の石灰化病変(矢印)

術後6ヶ月で改善された石灰化病変

 

その2

その3