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治療と予後 その2:

 「内視鏡手術」には2種類あります。1つ目は脇の下(腋窩)から行うものです。
 2つ目は前胸部から行うものです。手術の適応は大きくない良性甲状腺腫、小さいがんなどとなります。これらはともに、首に傷がなく、手術して2−3ヵ月たつと多くの方では首の症状は消失します。特に腋窩法では傷がご本人,周りの方からも見えないため,手術という嫌悪感から開放され、手術を受けたことを忘れてしまう方もお見受けします。入院期間はともに1週間程度です。
 なお、この「内視鏡手術」は厚生労働省から「高度先進医療」に認可されております。したがって、健康保険の費用のほかに、手術料として約18万円を患者様にご負担願っております。

  
(腋窩からの手術:腕を下ろすと傷が見えない)


(前頸部からの手術:胸にわずかの傷がある)

 これらの手術はそれぞれ利点と欠点があります。当グループの医師と十分にご相談されて下さい。しかし、繰り返しますが当グループの低侵襲性手術は傷口の大小にかかわらず、組織を傷つけないように愛護的(優しく)行っておりますので、一般に行われている同じような手術と比べ、手術後の満足度はきわめて高く、「質の高い生活」を送ることができます。

 手術の合併症(手術による障害)は主に2つあります。第1は、甲状腺の背面を通っている反回神経麻痺による嗄声(させい、しわがれ声)の可能性です。この反回神経は甲状腺に密着しているため、甲状腺切除に際し軽度の手術的侵襲を受けただけでも軽い嗄声がおこります。また、甲状腺腫が浸潤していることもあります。そのときには一部を削ったり、切離しなくてはなりません。もしも、嗄声や誤飲が起きた場合にはビタミンB12剤を飲んでいただきます。多くの方は手術後、3ヵ月程度で嗄声はほぼ改善します(誤飲はもっと早く治ります)。しかし、腫瘤の部位と反回神経の位置関係によっては、まれですが嗄声の持続する場合があります。
 その第2は、甲状腺の背面にある副甲状腺(甲状腺の左右に計4個ある)が甲状腺切除と一緒に摘出されることが大きな腫瘍ではおこりえます。そのときには手術後に一時的に血中カルシウム値が低下します。その症状は口唇、手指がしびれたり、こわばったりすることです。また、胸が苦しくなるような症状もあります。いずれにしても、今まで経験したことのない症状です。これはカルシウム剤を注射、あるいは内服すれば消失し、心配することはありません。普通は1−2週間以内で薬を飲む必要がなくなりますが、大きな腫瘍の時には甲状腺亜全摘となるため永続的に内服することもあります。

 退院時、甲状腺腫の再発を防止する目的で、甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を飲んでいただくことがあります。副作用はほとんどなく、健康剤のような感じでお飲みになってください。6ヶ月―1年以内で中止することが大部分ですが、甲状腺を多く切除したとき(甲状腺亜全摘)では長期にわたり内服していただきます。また、傷がきれいになるお薬を処方することもあります。
外来の受診は術後1,2,6ヵ月目程度であり、手術のことを忘れてしまう方がほとんどです。

 私達は1999年7月よりこれらの手術を行っており,十分な経験を積んでおり,手術合併症も今までの手術術式と同じく僅かなものです。手術合併症は反回神経麻痺によるしわがれ声、副甲状腺機能低下症による手指・口唇のしびれ感などが考えられますが、その出現する頻度はごくまれです。