確かにインターネットを利用すれば世界中のあらゆる情報を手に入れることができます.しかし、誰かが有用な情報を公開しない限り情報を得ることはできないのです.まだ、救急医学に関する情報はそれほど多くありません.有用な情報を利用するのも作るのも我々なのです.公開された情報は、インターネット上で全世界の共有財産となります.日本ではインターネットの利用が普及し始めて日が浅く、インターネット上に情報を公開している救急医療施設もまだ少なく、ホームページを開いていても試運転中であったり施設の紹介程度で有用な情報を提供している施設はわずかです.ここから現在ホームページを開いている日本の主要な救急医療施設を見ることができます.また、海外の外傷や救急医療に関係する情報もまだそれほどは多いとは言えないようです.それでは、救急医学の領域で有用な情報としてはどのような情報が考えられるでしょうか.
- データーベース
データーベースと言うと文献検索を連想する人が多いですが、確かにtelenetの機能を使いMEDLINEなどの主要な医学文献を検索することもできます(有料であり、登録をしなければ利用できない).しかし、特定の分野において無料で公開されているデーターベースも数多くあります.インターネットでは、世界中に無数にある情報から目的とする分野の情報を検索するためのシステムとして「Search Engine」と呼ばれる検索サービスを提供しているサイト(場所)も多くあります.ここから、特定のkey wordに関連するサイトを探し出すことができます.また、救急領域で現在公開されているデーターベースとして有用なものに山口大学医学部附属病院が提供している「中毒情報」があります.これはカテゴリー別に分類され検索することができ、商品名、薬理作用、中毒の機序、臨床症状、治療法と実際の症例も一部提示されています.救急医療に関するこうしたデーターベースの蓄積と公開が望まれる.
- 治療マニュアル
日進月歩である医療技術の進歩の中で、最新の治療技術や治療法に関する情報も有用なものの一つです.従来このような情報は印刷物として出版され、せいぜい年に1度改定される程度でした.しかし、インターネットではリアルタイムに最新の情報を提供することができます.現在インターネットで救急医療に関するいくつかのマニュアルも公開されています.このような情報が増加し、常時改定されれば分厚い教科書を何冊も抱えて救急室やICUを駆け回る必要はなくなるでしょう.
- 症例報告
救急医療の現場で最も要求される情報は、直面している患者と類似した症例の情報でしょう.すでにいくつかのサイトで、外傷や急性疾患の症例が提示されています.こうした情報が蓄積されれば、世界的レベルで症例を検索して参照することにより診療に役立てることができるはずです.
- 学会情報
最近、学会情報もWWWで公示している学会が増えてきました.今年度の第24回日本救急医学会総会でもプログラムの一部をWWWで公示しています.学会によっては抄録を公開したり、会場を設定せずインターネット上で開催される学会も現実のものとなっています.分厚い抄録集を印刷して発送したり、豪華なホテルを貸し切るような学会は必要でなくなるかもしれません.
- 教育啓蒙
救急医学では、救急医療の現状を公開し、災害や事故の発生の予防、そして救急救命法などを一般市民に啓蒙することもなども重要な責務です.こうした情報の提供においてもインターネットは極めて有効な手段です.愛媛大学のグループは、心肺脳蘇生の実施方法を公開し一般市民の教育啓蒙に貢献しています.しかし、こうした目的の情報提供は日本ではまだ少なく、個人的レベルでの活動が見られる程度です.是非、救急医学会などが率先して組織だった情報の公開を行うべきだと思われます.
- 災害時の情報提供
昨年の阪神大震災の時に見られたように、Disaster Managementにおけるインターネットの果たす役割は大きいと思われます.アメリカでは、連邦災害対策局(FEMA)がホームページを開き、災害情報や災害時の危険回避、支援組織、ボランティア活動などの情報を広く一般市民に公開しています.日本でも、愛媛大学医学部救急医学教室がアメリカのピッツバーグ大学と提携し GHDNet(Global Health Disaster Network)を開き、救急・災害医療のホームページを公開しています.ここでは救急・災害医療に関する国内外の文献も多数掲載しています.また、災害時の医療活動や治療経過なども極めて有用な情報です.昨年の地下鉄サリン事件では、聖路加国際病院のグループがいち早く克明な治療経過を報告しています.