リハビリテーションの対応(V 未完成 )

▒ 各 論 ▒
⑴ はじめに
⑵ 実際には
⑶ 視力障害 への対応

横山
⑷ 羞 明 への対応
⑸ 視野障害 への対応
⑹ 夜 盲 への対応
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図04 光

§.羞明 への対応

光

光が強くて,不快に感じたり見えにくい状態を「まぶしい」とする。医学的にこれを表現すると「羞明」になる。

☀ ¿  まぶしさって何  ? ☀

まぶしさとは一体何なのか。

羞明は正常者においても,病的状態においても生じる。正常者においてはグレアが,病的状態においてはグレアおよびグレア以外の機序(眼表面の疾患,眼内の炎症性疾患,透光体の混濁や視野欠損,網脈絡膜疾患,視神経疾患,緑内障,中枢性疾患,精神疾患等)が羞明の原因となる。

また狭義では,「三叉神経第一枝の病的な知覚刺激によって反射性に虹彩の血管拡張を生じ,これに光刺激が加わる事により縮瞳時に傷みを伴うもの」ということですなわち,網膜視細胞の閾値の変化,透光体の変化,または炎症による(ぶどう膜や角膜の)刺激,が原因となる。

ただし,「まぶしさ」の質も人によって異なると考えられる。網膜色素変性の患者が訴える羞明と,眼瞼痙攣の患者が訴える羞明とが同じ羞明であるかと言うと,私は何か質が違うのではないかと考える。または,訴えがない患者でも遮光レンズを装用して楽になるのなら,それは羞明があると言える。

注 グレアとは,過剰な輝度または過剰な輝度対比のために不快感または視機能低下を生じる現象。
  『不快グレア』と『障害(減能)グレア』に分類される。これらは正常者と視機能に何らかの異常を生じる者とのいずれにも生じることがあり,それぞれ羞明の要因として関与する。
・不快グレア:視野内で隣接する部分の輝度差が著しい場合,または眼に入射する光量が急激に増したときに不快を感じる状態
・障害(減能)グレア:眼組織において生じる散乱後により,網膜像のコントラストが低下して視力低下を来たす状態。また,光沢のある印刷面における反射光のために印字が読み難い場合などのような反射グレアも障害グレアの一種である。これらが同時に生じることもある。

参考文献:「ロービジョン関連用語ガイドライン」日本ロービジョン学会用語委員会編

 「まぶしさ」をどう評価するか

「まぶしさ」というものに尺度はない。グレア視力(CSV-1000,CAT2000など)という検査方法もあるが,結局は人口光によるものであるし,日中の太陽光と比べその光量や分光特性は全く異なるものとなる。したがって,実生活における羞明の状態が検査結果に反映されているとは言いがたい。一番知りたいのは,ロービジョン者が通常の視力検査法と比べて,どのような明るさの条件のときに視力がどれ位低下するのか,ということなのであるが…。

例えば,自覚的に遮光レンズが有効な症例でも,遮光眼鏡装用下と非装用下でグレア検査を行うと,全く同じ結果となる場合も多々ある。かといって,その遮光レンズが羞明に対して役に立たないかというと,実際は違うのである。だから,遮光レンズの有り・無しで視力を測定して,差がないからと言って適用外とは考えないこと。

ところで羞明がある場合の見え方とはどのようなものだろうか。

まず患者さんからよく聞くのは,「階段が坂になって見える」という訴えである。最近では昔のような黒いすべり止めがついた階段は新しい建造物では好まれず,多くで同じようなトーンのすべり止めがついた階段がよく見られる事と思う。そのような場所で,ちょっと焦点をずらしたり,雲霧や遮閉膜をつかって段差を観察してみてほしい。確かに,ただのグレーのもやもやした坂が出現すると思う。これは視覚障害者にとっては大変危険な事である。もちろん,道路の縁石なども同様で,大変コントラストが低いために段差に気づかず,転倒してしまう人もいる。

こういったケースに遮光レンズが有効である可能性が高い。羞明を抑える事によってコントラストが上がると,一番変化するのが同系色のものの凹凸,段差である。逆にいえば,そのようなものを目標にして遮光レンズを合わせていくと,より効果が解り易い。

私が実際に合わせるときは,白い建物群や階段,凹凸のある白い壁などを見ていてもらい,その凹凸がくっきり見えるかを判断基準にしてもらう。このような方法だと,患者自身もその違いが解りやすいように思う。また,このような歩行時のみならず,近見時などでも遮光レンズは効果を発する。大体の印刷物は白地に黒い文字で印字された物ばかりである。この白い紙がまるでレフ板のように光を反射し,ハレーションをおこして黒い文字を飛ばしてしまう,というのが羞明がある場合の見え方だと思われる。遮光レンズを通して見ると,それが押さえられ,文字のコントラストが向上するのだ。また,PC画面やTV画面などでも遮光レンズは効果がある。これらは画面自体が発光しているので,結局は光源をずっと見つめる作業になるので,装用する事でコントラストが高くなる可能性が高い。

結局は色々な条件下(屋内外,晴天時や曇りのときなど)で遮光レンズを装用テストし,自覚的に見え方がどれ位改善するか否か,という事でしか羞明の有無を判断できないのが現状だ。とにかく,遮光レンズの効果を検査上では立証できないということ,患者の主観に任せて選択するエイドであるということである。

可視光線の380〜780nm のうち,短波長光(青色光)が羞明を引き起こすといわれている。遮光レンズは短波長部分の光を効果的にカットする機能を持ったサングラスである。短波長の遮断と長波長の透過により,明るさの確保と眼組織の保護がねらえる.おもに赤橙色レンズとなる.

●エイドの選択:非光学的補助具

 対象物を見やすいように拡大することはもちろん大事だ。しかし,全てを拡大して見る事を頑張るだけでは疲れてしまう。ほんの少しの工夫で身の回りのものがぐっと使いやすくなる事がある。

  1. 遮光レンズ

    医療用に遮光レンズを厳密に定義すれば,概ね500nm 以下の短波長を選択的にカットする機能を持ったサングラスである。

    白子症,先天無虹彩,網膜色素変性症など,羞明が考えられる疾患にはまず遮光レンズの処方を考えるだろう。しかし,その他の疾患によるロービジョン者でも,その多くが実は程度の差はあれ羞明を持っている可能性がある。羞明のメカニズムをきちんと説明できない症例も多々あるのだが,健常者に比べ明暗の条件がシビアであり,その調整の為に遮光レンズが有用であるのでは,と私は解釈している。とにかく,ロービジョン者にエイドを処方する時には,必ず遮光レンズもルーチンでトライするべきだろう。

図05 遮光

ただし,補装具の中の遮光レンズは定義がまた異なる。例えば東京都では色めがねが補装具から廃止されたのに伴い,「短波長光を透過させないカラーフィルターレンズが主要なものであるが,まぶしさが軽減されるなら性能が保証された一般のサングラス」も拡大解釈で遮光レンズとして支給を認めている。

遮光レンズを通して見ると,
・・・・

  1. タイポスコープ(罫プレート/リーディングスリット)

    字の読み書きに用いる。周辺のハレーションを押さえるため,文字のコントラストが上がる。また,文章を読む時にターゲットが見つけやすくなり,行の読み飛ばしを防ぐことができるため,偏心固視をしている人も文章を捕らえやすい。逆を言えば偏心固視の訓練にも応用できる。同様の形ではがきガイドやサインガイドもある。市販されているが,できればその人が使用する文字サイズに合わせて作成した方が使いやすい。

    図06図07

  2. ブラックノート,黒い定規などの文房具

    図08

  3. 拡大本(一般書籍,教科書など)

    全国各地の拡大写本ボランティア。最近では全国レベルで使用することができる拡大教科書を,小学校では国語と算数.中学校では国語と数学が採択できるように(107条 本扱い:学校教育法題107条の規定により,教科書として使用することのできる図書)。ただし,この拡大教科書は原本となる教科書会社が,国語は光村,算数・数学は啓林館と限定されており,書体や文字サイズ,行間等が一定であるため,全ての弱視児に有効というわけではない。その他,弱視用地図などもあり。

  4. 書見台(読書用スタンド)
  5. 音声式電化製品(タイムスイッチ,体重計,血圧計,血糖値測定機,電卓,時計etc.…)

    図09

  6. 黒白まな板,黒い食器,各種調理器具

    図10

  7. 電磁調理器
  8. 高輝度ライト

その他,ロービジョン者にとって使いやすい物は,実は色々なところに転がっている。近所のスーパーやホームセンターで,当事者の気持ちになって商品を眺めてみてほしい。あのような状況だったら,これが使いやすいのではないか,といった物が結構見つかるはずである。ロービジョン者本人は,どうしても自分で使いやすい物を積極的に探す事が難しい場合が多い。ロービジョン眼鏡店や便利グッズのサイトに商品を注文することだって困難な場合が多い(そして,そういった所の商品は正規の値段なので少々高かったりもする!)。近所のどこでこれが手に入る,といった情報を提供することも大事だと思う。

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2008

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