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帝京大学医学部第3学年 定期本試験(外科学・救急医学/熱傷) 正解と解説

講義(1997/1/17 9:00〜10:30):担当 鈴木 宏昌

  1.  正解は (1)と(3)

    1. 浅達性II度熱傷(SDB:superficail dermal burn)とは、真皮の表層部(有棘層・基底層)に留まる損傷である

      【解説】  この記述は正しい。講義では日本熱傷学会の熱傷深達度(深度)分類についてスライドを用いて解説した。また、II度熱傷は浅達性II度熱傷(SDB:superficail dermal burn)と深達性II度熱傷(DDB:deep dermal burn)に分けられ特に重要であるので講義プリント(page 2)に記載してるのを参照されると良い。
        
      < 熱傷の深達度 >

    2. 無痛性で羊皮紙様の熱傷創面は深達性II度熱傷(DDB:deep dermal burn)の特徴である

      【解説】  この記述は誤りである。無痛性で羊皮紙様の熱傷創面はIII度熱傷の極めて特徴的な所見である。講義では、実際の症例のスライドを含め供覧したはずである。III度熱傷の重要な所見であるため講義プリント(page 2)にも記載しておいた。
        < 熱傷の深達度 >

    3. 手掌法とは、患者の手掌部(手首から指全部)の面積を体表面積のほぼ1%として算定する方法である

      【解説】  この記述は正しい。手掌法は簡便法の一つとして、小さい飛び火した熱傷面積の算定に便利である。大きな面積をこの方法で算定すると誤差が大きくなるので適さない。

        < 熱傷面積の算定 >

    4. 深達性II度熱傷(DDB:deep dermal burn)では肥厚性瘢痕となることはない

      【解説】  この記述は誤りである。DDBは肥厚性瘢痕となることが多い。

        < 熱傷の深達度 >

    5. BAXTERの公式では、(熱傷面積%×体重×4 )ml を受傷後8時間に投与する

      【解説】  この記述は誤りである。BAXTER(Parkland)の公式では、初期24時間の総輸液量 (熱傷面積%×体重×4 )mlとし、その1/2量受傷後8時間に投与し残りの1/2次の16時間で投与する。この点は熱傷初期輸液の問題の最大のポイントであるので、講義プリントにも特に詳しく記載しておいたので参照して欲しい。

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  2.  正解は (2)と(5)

    1. 皮膚が炭化した熱傷をIV度熱傷と言う

      【解説】  この記述は誤りである。熱傷深度の分類にIV度熱傷と言うのはない。俗に「4度の熱傷」などと記された本もあるが、医学的にはIV度熱傷はない。このことについては講義でも触れた。もう一度下記の項目について自習して欲しい。

        < 熱傷の深達度 >

    2. 皮膚は真皮と表皮よりなっている

      【解説】  この記述は正しい。言わば人体解剖(組織学)の常識と言えよう。。もう一度下記の項目について自習して欲しい。

        < 皮膚の解剖 >

    3. 真皮から上皮が再生することはない

      【解説】  この記述は誤りである。真皮中の毛根、汗腺などの付属器に含まれる上皮細胞から上皮化が起こる。したがって、II度熱傷でも真皮成分のうちの毛根などの由来の上皮細胞から上皮化が起こるが、深さが深くなるほど残存する上皮組織が少なくなり上皮化に時間がかかるのである。

        < 皮膚の解剖 >

    4. 熱傷とは表皮のみの損傷である

      【解説】  この記述は勿論誤りである。熱傷とは皮膚の損傷であり、皮膚は表皮と真皮よりなっている。

        < 皮膚の解剖 >

    5. III度熱傷は上皮化することがない

      【解説】  この記述は正しい。III度熱傷では、上皮化するための上皮細胞が残存していない。したがって、植皮を行なわない限り上皮化することがない。試験問題と言うのは、記述上の多くの制約を受けている。極めて単純明解に記載しなければならないのでこのような記載になるが、種々の条件や例外を含めれば正しくないとも言える。例えば、非常に小さな面積のIII度熱傷創では、辺縁から上皮化が起こり、いづれはIII度熱傷面も上皮で覆われる。しかし、この問題の選択枝から考えて正解を2つ選ぶとすれば、他の選択は考えられない。

        < 熱傷深度の鑑別法と症状・経過 >

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  3.  正解は (2)と(5)

    1. 熱傷面積が大きくても疼痛が軽度であれば軽症と言える

      【解説】  この記述は勿論誤りである。III度熱傷では疼痛を伴わない。また、注意しなければならないのは、他の副損傷により疼痛を感じないことがあることである。頚椎損傷を伴っていると麻痺部位の熱傷創がII度熱傷であろうと疼痛を訴えない。また、既往症として四肢の麻痺のある患者や、末梢神経損傷を伴った患者では麻痺部位の熱傷(他の外傷も)があっても疼痛を訴えない。だからと言って軽症であるとは当然言えない。

    2. 小児は成人に比べ体表面積のうち下肢の占める割合が小さい

      【解説】  この記述は正しい。医学生にあらずとも極常識的な記述であろう。体型として小児は一般に頭部と体幹の占める割合が大きく、四肢の割合が小さい。Lund & Browderの法則は、この点を考慮に入れて詳細な熱傷面積を算定できるようになっている。

        < Lund & Browderの法則 >

    3. 熱傷のみでも熱傷面積が80%を越えると昏睡となる

      【解説】  この記述は誤りである。熱傷のみでは意識障害を伴うことはないかとは極めて重要である。熱傷患者で意識障害を伴って来院したら、意識障害の原因を検索しなければならないからである。意識障害を伴った熱傷患者では、気道熱傷(CO中毒、呼吸不全)、頭部外傷、何らかの原因によるショックなどを考慮する必要がある。
        とても印象的な症例を経験しているので付け加える。
        40代の男性が自殺しようとして、ワゴン車で自宅近くの川沿いの土手に車を止め全身に灯油を浴びて火を点けた。衣服は燃え全身熱傷をおびたが死にきれず、ぼろぼろの衣服のまま1kmほどある自宅まで歩いて帰った。玄関で仰天した妻が救急車を要請し、病院まで運ばれたてきたのである。病院に搬入されたとき、全身90%III度熱傷であったが意識障害はなく会話可能であった。残念ながら熱傷ショック期を離脱できず不幸な転帰を取ったのであるが、このように全身90%III度の熱傷であっても、受傷直後は意識障害は疎か1kmも歩くことが可能なのである。

        < 合併損傷・既往疾患と予後 >

    4. 入院を要する重症熱傷は70歳以上の高齢者に多い

      【解説】  この記述は誤りである。講義の冒頭に「東京都救急熱傷治療システム」による東京都の熱傷統計についてスライドを供覧して解説したように、入院を要する熱傷患者の年齢分布を見ると、10才未満の幼小児が19%と最も多い。しかし、予後という点においては70再以上の高齢者の予後は悪く死亡率は30%を越えている。

        < 東京都救急熱傷治療システムの統計 >

    5. ヘモグロビン尿にはハプトグロビンの投与が有効である

      【解説】  この記述は正しい。広範囲熱傷では、しばしばヘモグロビン尿を見ることがある。熱の作用により血管内溶血(赤血球が破壊されヘモグロビン血症となる)するためである。溶血そのものは正常でも少量起こっており、通常血中の特殊な蛋白(ハプトグロビン)と結合し、肝臓で処理されることは生化学や生理学の講義で学習したはずである。血中に溶出したヘモグロビンがハプトグロビンにより処理できる量を越えるとヘモグロビン尿として尿中に排泄される。ヘモグロビン血症は、ヘモグロビン円柱となって尿細管を閉塞したり、直接尿細管上皮に作用し変性壊死を起こすことにより急性腎不全の原因となる。現在、ヒト・ハプトグロビンの製剤が使用可能でありヘムグロビン血症の治療に利用されている。

        < ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿 >

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  4.  正解は (1)と(4)

    1. 気道熱傷では喉頭浮腫による上気道閉塞が起こる

      【解説】  この記述は正しい。気道熱傷の最も重要な点である。気道熱傷の直後には嗄声程度で気道閉塞の症状は見られないことが多いが、数時間経過すると上気道が熱による損傷を受けていれば、喉頭浮腫が進行し上気道閉塞が起こる。気管内挿管により気道を確保することができれば窒息死することはないが、タイミングを逸し、喉頭浮腫が高度となると気管内挿管も困難となり死亡することがある。

        < 熱傷の死因 >

    2. 熱傷の予後に年齢は大きく関与していない

      【解説】  この記述は誤りである。熱傷の予後に影響する因子として年齢が重要な因子であることは講義でも強調したはずである(講義プリントpage 2〜3)。講義のスライドで示したように簡便法(熱傷面積+年齢>100)は実際の熱傷患者の予後をよく反映している。

        < 年齢と予後 >

    3. 熱傷ショック離脱期にはCVPは低下する

      【解説】  この記述は誤りである。ショック離脱期には血管透過性が回復し、浮腫となって間質に貯留していた細胞外液が血管内に戻りhypervolemicになっている。したがって、ショック離脱期には入るとCVPは低下せず、むしろ上昇して多量の利尿を得るのである。

    4. 9の法則では、顔面は全身の4.5%と算定される

      【解説】  この記述は正しい。9の法則では、頭部全体で9%と算定される。すなわち、顔面のみではその約1/2であり4.5%となる。

        < 9の法則(Rule of Nine) >

    5. 熱湯による熱傷ではIII度熱傷となることはない

      【解説】  この記述は誤りである。ごく常識的に考えれば当然である。講義では熱湯熱傷(scald burn)の例として乳児のポットのお湯による浅達性II度熱傷のスライドを供覧したのでII度熱傷の印象が強いのかも知れないが、熱湯であっても接触時間が長ければ当然III度熱傷となる。実際、動物の熱傷モデルでは麻酔下に熱湯に数秒間浸すことによりIII度熱傷を作成することができる。

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  5.  正解は (2)と(3)

    1. Lund & Browderの法則とは熱傷急性期の輸液量を算定する公式である

      【解説】  この記述は誤りである。Lund & Browderの法則とは、熱傷面積の算定法の一つで、年齢を加味し四肢を細かく区分して詳細な熱傷面積を算定できるようににしたものである。

        < Lund & Browderの法則 >

    2. 熱傷ショック期にはHypovolemic Shockとなり死亡することがある

      【解説】  この記述は正しい。熱傷の初期に血管透過性が亢進し、血管内水分が大量に間質に漏れ出てhypovolemic shockとなることが十分に理解されていなかった頃、熱傷ショック期の死亡は決して稀ではなかった。現在でも、広範囲な熱傷では、何らかの理由で十分な輸液ができなかったり、大量の輸液を必要すると言うことが理解されていない医療機関では熱傷ショック期にhypovolemic shockとなり死亡することがある。諸君が無事「医師」となった暁には決してこのような熱傷死は起こらないと確信する。

    3. 9の法則では、頭部と四肢を除いた躯幹の面積は37%と算定される

      【解説】  この記述は正しい。9の法則では、躯幹は前胸部前腹部で9+9%=18%、背部が同様に9+9%=18%と算定される。これに陰部の1%を加え、四肢以外の躯幹の面積は37%と算定される。

        < 9の法則(Rule of Nine) >

    4. BURN INDEXとはIII度の熱傷面積とII度の熱傷面積の和である

      【解説】  この記述は誤りである。BURN INDEXとは、熱傷深度を加味した熱傷重症度の指標で、III度熱傷を重視しII度熱傷は1/2に評価している。BURN INDEXはよく試験に出る重要な指標なので講義プリント(page 3)にも記載しておいた。

        < BURN INDEX: B.I.(熱傷指数) >

    5. 広範囲熱傷では、熱傷ショック期を越えれば死亡することはない

      【解説】  この記述は誤りである。現在、熱傷初期輸液の方法が確立され熱傷ショック期の死亡は少なくなってきた。一方、広範囲熱傷ではショック離脱後の多臓器不全や敗血症が現在最大の死因となっている。

        < 熱傷の死因 >

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