- 熱傷面積が大きくても疼痛が軽度であれば軽症と言える
【解説】
この記述は勿論誤りである。III度熱傷では疼痛を伴わない。また、注意しなければならないのは、他の副損傷により疼痛を感じないことがあることである。頚椎損傷を伴っていると麻痺部位の熱傷創がII度熱傷であろうと疼痛を訴えない。また、既往症として四肢の麻痺のある患者や、末梢神経損傷を伴った患者では麻痺部位の熱傷(他の外傷も)があっても疼痛を訴えない。だからと言って軽症であるとは当然言えない。
- 小児は成人に比べ体表面積のうち下肢の占める割合が小さい
【解説】
この記述は正しい。医学生にあらずとも極常識的な記述であろう。体型として小児は一般に頭部と体幹の占める割合が大きく、四肢の割合が小さい。Lund & Browderの法則は、この点を考慮に入れて詳細な熱傷面積を算定できるようになっている。
< Lund & Browderの法則 >
- 熱傷のみでも熱傷面積が80%を越えると昏睡となる
【解説】
この記述は誤りである。熱傷のみでは意識障害を伴うことはないかとは極めて重要である。熱傷患者で意識障害を伴って来院したら、意識障害の原因を検索しなければならないからである。意識障害を伴った熱傷患者では、気道熱傷(CO中毒、呼吸不全)、頭部外傷、何らかの原因によるショックなどを考慮する必要がある。
とても印象的な症例を経験しているので付け加える。
40代の男性が自殺しようとして、ワゴン車で自宅近くの川沿いの土手に車を止め全身に灯油を浴びて火を点けた。衣服は燃え全身熱傷をおびたが死にきれず、ぼろぼろの衣服のまま1kmほどある自宅まで歩いて帰った。玄関で仰天した妻が救急車を要請し、病院まで運ばれたてきたのである。病院に搬入されたとき、全身90%III度熱傷であったが意識障害はなく会話可能であった。残念ながら熱傷ショック期を離脱できず不幸な転帰を取ったのであるが、このように全身90%III度の熱傷であっても、受傷直後は意識障害は疎か1kmも歩くことが可能なのである。
< 合併損傷・既往疾患と予後 >
- 入院を要する重症熱傷は70歳以上の高齢者に多い
【解説】
この記述は誤りである。講義の冒頭に「東京都救急熱傷治療システム」による東京都の熱傷統計についてスライドを供覧して解説したように、入院を要する熱傷患者の年齢分布を見ると、10才未満の幼小児が19%と最も多い。しかし、予後という点においては70再以上の高齢者の予後は悪く死亡率は30%を越えている。
< 東京都救急熱傷治療システムの統計 >
- ヘモグロビン尿にはハプトグロビンの投与が有効である
【解説】
この記述は正しい。広範囲熱傷では、しばしばヘモグロビン尿を見ることがある。熱の作用により血管内溶血(赤血球が破壊されヘモグロビン血症となる)するためである。溶血そのものは正常でも少量起こっており、通常血中の特殊な蛋白(ハプトグロビン)と結合し、肝臓で処理されることは生化学や生理学の講義で学習したはずである。血中に溶出したヘモグロビンがハプトグロビンにより処理できる量を越えるとヘモグロビン尿として尿中に排泄される。ヘモグロビン血症は、ヘモグロビン円柱となって尿細管を閉塞したり、直接尿細管上皮に作用し変性壊死を起こすことにより急性腎不全の原因となる。現在、ヒト・ハプトグロビンの製剤が使用可能でありヘムグロビン血症の治療に利用されている。
< ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿 >