網膜の病態 |
part Ⅱ 先天異常・血管病変・炎 症 |
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網膜の低形成と異形成
低形成 hypoplasia
軸索ないし神経節細胞の減少を中心とした発生異常では,視神経乳頭の低形成と同じ
カテゴリー.
それ以外の網膜構成エレメントの減少については ?
異形成 dysplasia
胎生期に起きる網膜発生・発育異常で,本来の網膜の形態になれず組織崩壊状態となる.程度問題ではあるが,鎌状網膜剝離・牽引乳頭・黄斑偏位に連続する変化となり得る.染色体異常では D群染色体 で高頻度とのことである.
先天網膜剝離 congenital retinal ablation
眼杯の内層と外層の融合の失敗,あるいは成長速度の不整合.
網膜欠損(コロボーマ coloboma
ぶどう膜欠損(の結果)として扱う.
黄斑欠損(コロボーマ coloboma
トキソプラズマやサイトメガロウイルス,Zikaウイルスによる炎症性瘢痕,非定型ぶどう膜欠損などによる.分化・形成過程の異常では,弓状線維形成や黄斑形成の欠陥といわれる.それぞれ沈着色素の多寡,血管構築,残存組織構成,などで特徴がある.
黄斑低形成 macular hypoplasia(fovea plana, foveal hypoplasia)
黄斑低形成は先天無虹彩や白皮症に合併することが多い.無虹彩症では PAX 6 遺伝子の異常により,白皮症ではメラニン不足による.
あるべき色素 dark maculaがない.中心小窩の形成がない.発生の途中で分化を止めてしまったかのようである.
程度・視力はさまざまである.
中心小窩は痕跡のようである.輪状反射はどこへ ? 陥凹はどうした ?
⁂黄斑低形成 : 白皮症 無虹彩 真正小眼球 杆体一色覚 や 先天停在夜盲を含む網膜ジストロフィ 未熟児網膜症 FEVR 色素失調症 Down症候群 視神経低形成 等で合併.
-2 発育不全黄斑 または 未完成黄斑 ateliotic macula
生後,視機能の向上が認められる,・・ようである.
黄斑偏位 macular ectopia,牽引網膜 dragged retina
耳側周辺方向への収縮が軽度であった場合,黄斑が引きずられたような所見になる.牽引網膜・黄斑偏位である.乳頭黄斑間が離れるので外斜する(というか,角膜反射が鼻側に出る・・・いわゆる陽性 γ 角である)が,視軸は正面である.
視神経乳頭にも種々の変形を認める.また,鎌状剝離に連続する病態である.
鎌状網膜剝離 falciform retinal detachment ∕ ablatio falciformis congenita ,牽引乳頭 dragged disc
隆起した網膜が,視神経乳頭から下耳側周辺部やときに水晶体後囊まで続く.黄斑は,ひだ(皺襞)の中に巻き込まれ,眼底の他の部分は血管が減っているように見える.前眼部への連続は,水晶体後面増殖組織などのために浅前房・狭〜閉塞隅角となるリスクがある.
先天網膜ひだは,硝子体網膜異形成・血管新生病での病型の一.硝子体血管系遺残(第一次硝子体過形成遺残),家族性滲出性硝子体網膜症,
有髄神経線維 medullated (myelinated) retinal nerve fibers 【 ここ で 】
脳から末梢へ向かう髄鞘形成は篩状板手前で終了するが,ときに網膜内にミエリン鞘 ∕ oligodendroglia が入り込む.astroglia が阻止損ねたか,眼内の孤立性は網膜面で形成されるのか.網膜での臨床的意味はほとんどない.
髄鞘化は胎生5か月くらいで外側膝状体から始まる.通常では脳内でも出生時には未完成,眼窩部は生後7か月くらいで尚無髄,全体で2歳以上を要する.
網膜血管の形状異常 malformations 〜 tortuous retinal arteries without systemic hypertension 【 ☟ ここ で 】
動脈の蛇行も無害な先天異常だといいんだけど.また,ルール違反の変な分岐血管があったりする.
乳頭上膜 epipapillary membrane 【 ここ で 】
病 態:
①高血圧性変化は,おもに可逆的な動脈攣縮性所見である.高度になると,血管内皮障害・網膜色素上皮障害による透過性亢進・血管閉塞をきたし,虚血性病変は網膜血管のみならず脈絡膜にも認められる.
これらに因り,出血・浮腫・虚血所見がみられるのが“高血圧網膜症”で,続発病変が修飾する.血管の所見のみで網膜器質病変がないときは“高血圧眼底”という.定型的には若年高血圧で観察されることが多い.通常は次の生理的加齢変化と複合した所見となる.
②動脈硬化性変化は,おもに不可逆的な器質変性である.高血圧変化に加齢変化が複合し,生理的加齢変化が加速された状態とも言える.だいたい血管の所見のみであり,網膜(細)動脈硬化症というレベルが多い.
症 状:
基本病変では通常,無症状.一般には高度な黄斑浮腫あるいは合併症による視力障害となる.
分 類:(ここでは疾患の分類ではなく,高血圧所見と動脈硬化所見を組み合わせた程度分類である ・・・・・ 念のため).
①KeithⲻWagener分類
②Scheie分類
③WongⲻMitchell分類
治 療:
内科管理,合併症対策
病 態:
動脈閉塞は,血流に乗った栓子(血栓や塞栓)が詰まるか,局部で生じた血栓に因って発症する.
網膜内での網膜中心動脈の分布範囲は網膜内層であるから,ここに虚血性の浮腫
症 状:
発症眼は,中心暗点状の急激な視力低下をきたす.光覚まで失われた状態では眼動脈レベルの閉塞を疑う.部分閉塞で中心窩領域をまぬがれると,視野障害となる.
分 類:閉塞部位で,
①網膜中心動脈閉塞(症)central retinal artery occlusion:視神経乳頭内篩状板部あるいはそれより近位で発症
②網膜動脈分枝閉塞(症)branch retinal artery occlusion:網膜内分岐部で発症
治 療:
およそ2時間以内に血行が再開しないと網膜は不可逆的な障害が起こるため,救急対応を要する.
最初期治療は眼球マッサージや前房穿刺.動脈拍動をまね,あるいは眼圧を下げて血流再開をねらう.
病 態:
交叉部(網膜内)や並走部(網膜内・乳頭内)で動脈の圧迫を受けて静脈血流が障害され,網膜内でうっ滞・溢血したもの.静脈内血栓が生じることにも因る.
閉塞部の末梢がわで,静脈の拡張・蛇行,表層性出血,ときに軟性白斑,網膜浮腫(特に黄斑浮腫)を示す.時間が経過すると,浮腫の吸収過程で硬性白斑が生じる.蛍光眼底造影検査を行えば,罹患静脈〜毛細血管に拡張・蛇行・透過性亢進,
症 状:
自覚症状は,罹患範囲の視野異常のほか閉塞部によって一定しない.出血だけでは視野異常は軽度であるが,虚血を伴うと暗点が深くなる.
中心視力への影響は,黄斑病変で決まる.短期的には網膜浮腫の影響が大きい.長期的には網膜面(硝子体境界面)の状態と中心窩囊胞変性の有無,これらによる視細胞損傷さらに新生血管発生あるいはその破綻による硝子体出血が加わる.
分 類:閉塞部位では,
①網膜中心静脈閉塞(症)central retinal vein occlusion:乳頭内静脈本幹で発症
②網膜静脈分枝閉塞(症)branch retinal vein occlusion:網膜面静脈分枝で発症
病態では
①出血型 hemorrhagic type:表層出血(時に深部まで)と浮腫が強い.
②虚血型 ischemic type:毛細血管閉塞が強い.浮腫(透過性亢進)は強い例とそれほどでもない例がある.
虚血の程度によっては,新生血管発生(増殖病変)の危険性が増す.歴史的には本幹閉塞と分枝閉塞では出血・虚血の解釈が異なる.
治 療:
レーザー光凝固,そのた
病 態:
高血糖により毛細血管が障害される(細小血管症).基本病態は透過性亢進・血管閉塞・血管新生(血管の変形を含める)である.結果が,毛細血管瘤・白斑・出血であり.これに増殖病変(線維血管膜の発生)が加わり,多彩な所見となる.
蛍光眼底造影所見が重要な情報を示す.治療の評価となる無潅流域と透過性亢進血管を描出するためである.
症 状:
自覚症状(視力障害)は,網膜病変にとどまる限り極めて乏しい.視力障害の原因は,主に黄斑症(浮腫・網膜の荒廃)と増殖網膜症(硝子体出血・牽引性網膜剝離・血管新生緑内障)による.
分 類:
単純網膜症 simple or bachground retinopathy
増殖網膜症 proliferative retinopathy
治 療:
内科管理
無潅流域・透過性亢進・新生血管に対してはレーザー光凝固,遷延する硝子体出血・増殖網膜症には硝子体手術.
病 態:
未発達網膜が保育器内の酸素投与により血管閉塞をきたし,そのご酸素濃度の低下につれ血管の異常増殖を起こす.
症 状:
古典的には,後水晶体線維増殖 retrolental fibroplasiaをきたし白色瞳孔を示す.両眼性である.
在胎8か月以前・・・30週以前,生下時体重1500g以下で急増する.27週以下での発症は90%,26週未満〜22週では必発 ? 且つ重症化する.
分 類:
①活動期
②瘢痕期
治 療:
レーザー光凝固が適応.冷凍凝固でもかなり代用可能.急速に剝離が進行する型や瘢痕期では硝子体手術.
基本病変は,①毛細血管の異常 ・・・・・ 血管拡張,透過性亢進,出血,など ②毛細血管の増殖・腫瘍化,など ③大血管の形状変化 ・・・・・“つる”状,“ループ”状,など.
病 態:
黄斑部網膜に円形の隆起をきたす疾患である.この隆起は浮腫液の貯留であり,網膜色素上皮と視細胞層との間に溜まる.従って,続発性網膜剝離に相当する.蛍光眼底造影検査により,脈絡膜から浮腫液の移動すなわち漏出点が証明される.この漏出が網膜色素上皮細胞障害を示す.
病態の本質は脈絡膜疾患であるが,習慣的に網膜疾患として扱う.古典的病名は “中心性網膜炎(retinitis centralis)”
症 状:
視力障害,おもに比較中心暗点.これによる視感度・色覚の変調.ほかに,小視症,
30〜40代の男性に多い.年齢的に老視の自覚開始年齢であることで,近見障害が意外に強かったりする(調節力にも影響があるらしい).
分 類:
①増田型=狭義 中心性網膜炎
②異型中心性網膜炎として
多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE;multiple posterior pigment epitheliopathy),特発性新生血管黄斑症 ・・・・・
治 療:
レーザー光凝固が適応可能.一般的にはストレス,心労,過労を避ける.
炎 症
病 態:網膜の構成は血管要素と神経要素(と,グリア要素)であることで,①血管炎として,あるいは②神経炎として発症する.次項は網膜血管炎としての概要である.(グリアを含めた)神経炎は視神経炎の範疇となる.網膜炎+脈絡膜炎は,ぶどう膜炎の範疇となる.
若年性再発性網膜硝子体出血 (hemorrhagia retinae et corpolis vitrei recidiva juvenum),あるいは
Eales病 ☞
症例写真② ∕
症例写真③
病 態:静脈壁へのリンパ球や形質細胞の浸潤(閉塞性静脈炎,あるいは特発性閉塞性血管周囲炎).周辺部網膜に無血管領域,新生血管を生じ,硝子体出血を繰り返す.
症 状:
分 類:
治 療:
病 態:血栓形成.これにより虚血性視神経症も注意が喚起される.
SLE(全身性エリテマトーデス):閉塞性血管炎.
一般的には出血・軟性白斑が中心となるが,重症では動脈閉塞を来す.
抗リン脂質抗体症候群:閉塞性血管炎.
ただし,動脈閉塞から静脈閉塞まで多彩である.
高安動脈炎 Takayasu arteritis(大動脈炎症候群 aortitis syndrome),あるいは
高安病 Takayasu disease,脈なし病 pulseless disease ☞
症例写真 ∕
雑誌記事
病 態:大動脈とその主要分枝および肺動脈・冠動脈に,狭窄・閉塞または拡張病変を起こす,非特異性炎症性疾患である.病変部位により症状は多様である.眼所見は慢性眼動脈閉塞の病態となる.男:女=1:9ほどとか.
初期には形質細胞及びリンパ球が中膜と外膜に浸潤する.その後び漫性壊死・増殖性炎症(巨細胞性肉芽腫性病変)となる.
キラーT細胞, NK細胞,γδT細胞によるパーフォリンを介した血管壁障害が示されている.
症 状:
①眼症状;一過性あるいは持続性,進行性の視力障害.
②頭部虚血症状;めまい,頭痛,失神発作,片麻痺.
③上肢虚血症状;脈拍左右差~欠損,易疲労感,指のしびれ感.
④全身症状;高血圧,発熱,倦怠感,易疲労感,頸部リンパ節腫脹,結節性紅斑.
⑤炎症反応,IgG・IgAの増加,C3・C4の増加,HLAⲻB52 ∕ B39などが陽性
樹氷状血管炎 (frosted branch angiitis)
☞
症例写真
病 態:網膜(動)静脈の高度な白鞘化を伴う,両眼性のぶどう膜炎.乳頭血管炎に共通するスぺクトラム.
症 状:
IRVAN 症候群 (idiopathic retinal vasculitis, anuerysms, neuroretinitis) ☞ 症例写真
病 態:
感染性炎症 → ぶどう膜炎 眼内炎へ
と,いうことで, 変性・腫瘍性病変 へ.