鼠径部ヘルニアの分類
(日本ヘルニア学会 平成21年4月 改訂版 重要な改訂箇所は朱書してあります)
目的 術式選択の基準や術後成績の客観的な比較に用いる。
原則 1.術中所見によって、ヘルニア門の位置と大きさに基づいて分類する。
2.複雑でなく、一般外科医が使える。
3.鼠径部アプローチと腹腔鏡下アプローチのいずれにも適用できる。
4.その他の詳細な事項は別に追加して記載する。
記載事項
1.直接(内鼠径)ヘルニア(膀胱上型、限局型)ではヘルニア門の径を記載する。
2.ヘルニア嚢が鼠径管内か、鼠径管外か、陰嚢まで達するかを記載する。
3. 再発ヘルニアではRecと付記し、可能なかぎり前回術式を記載する。
<分類>
Ⅰ型. 間接(外)鼠径ヘルニア
Ⅰ-1.間接(外)鼠径ヘルニア(軽度):
ヘルニア門の径は1cm(1横指)未満とする。ただし、1横指未満とは原則として第5指先端部の挿入不可能な程度とする。
Ⅰ-2.間接(外)鼠径ヘルニア(中等度):
ヘルニア門の径は1cm以上、3cm(2横指)未満とする。ただし、2横指未満とは原則として第2指と第3指が挿入不可能な程度とする。
Ⅰ-3.間接(外)鼠径ヘルニア(高度):
内鼠径輪は3 cm(2横指)以上である。
Ⅱ型. 直接(内)鼠径ヘルニア
Ⅱ-1.直接(内)鼠径ヘルニア(膀胱上):
ヘルニア門の径は3cm(2横指)未満であり、ヘルニア門の中心は、鼠径管後壁を二分して内側に近いもの。
Ⅱ-2.直接(内)鼠径ヘルニア(限局型):
ヘルニア門の径は3cm(2横指)未満であり、ヘルニア門の中心は、鼠径管後壁を二分して外側に近いもの。
Ⅱ-3.直接(内)鼠径ヘルニア(びまん型):
ヘルニア門の径は3cm(2横指)以上のもの。
Ⅲ型. 大腿ヘルニア
Ⅳ型. 併存型:
間接(外)鼠径ヘルニア、直接(内)鼠径ヘルニア、あるいは大腿ヘルニアが
併存したもの(各型を記載)
Ⅴ型. 特殊型上記の分類に属さない型
再発ヘルニアは初発ヘルニアの分類案にしたがって記載
注
原則としてヘルニア門の大きさは、横筋筋膜のレベルで、腹膜前腔の剥離後に測定するものとする。
腹腔鏡下手術では、原則として最大径を測るものとする。
臍ひだとの位置関係は問わない
鼠径管後壁とは、腹直筋(鞘)外側縁から下腹壁動静脈内側縁までとし、腹直筋(鞘)外側縁の外側にHenle靭帯や鼠径鎌の存在する症例では、その部分も含むものとする。
<解説>先日来ホームページでお知らせしておりましたが、学会分類の普及に伴って施設間のデータの乖離が大きいといった新たな問題が明らかになってきました。詳細な議論は略させていただきますが、先日の第7回学会で分類法の再検討のコンセンサスミーティングがなされ、上記のような改訂がなされました。
会員の皆様、会員外でも日常ヘルニアの診療にあたっておられる先生方におかれましては異論のある方も多いかと思われます。学会としてもこの案が完成版だと思っている訳ではありません。実際、非常に小柄な人で鼠径管後壁が3cm未満のII型は全部II-1かII-2になってしまうといった問題もあります。しかし、旧分類の普及によって、II-1型ヘルニアの重要性の認識が高まったことや、従来はばらばらになりがちだった前法アプローチ法派Drと腹腔鏡派Drが同一のテーブルで議論を行うようになってきたといった効果があったことは間違いありません。まずは、新分類でのデータを蓄積してさらに議論を積み重ねることが肝要かと思われます。とにかく使ってみてください。問題に感じられたことは、今後の学会の場で提起してください。
(ま、ヘルニア門の大きさは具体的数値を記録に残しておいた方が良さそうですけど。)
解説文責 稲葉