研究紹介Our research


東京都内における大気汚染の改善に寄与した要因は何か(原 邦夫教授)

東京都内の大気の汚染状態は、複数の道路が交差する地域などで課題は残っているものの、昔と比べるとかなり改善されてきました。その理由を探るために、大気中の微小粒子状物質(PM2.5)および浮遊粒子状物質(SPM; PM10に近似)の経年的・経時的な変化に関連する要因を検証しました。PM2.5とは大気中の2.5マイクロメートル以下の粒子の総称であり、おおよそ7マイクロメートル以下の空気中粒子の総称であるSPMの一部に当たります。ここでは、国際学術誌 Journal of the Air & Waste Management Associationに2回に分けて発表した内容を紹介します。

 都内には84か所の大気汚染常時監視測定局があります。代表的な一般環境大気測定局から2測定局、自動車排出ガス測定局から2測定局を選定し、1990年から2010年までのPM2.5およびSPMの時間平均値あるいは日平均値を公開資料から入手しました。一方、PM2.5およびSPMの濃度に影響を及ぼしていると考えられる要因をいくつか選定し、定量的および定性的なデータを集めました。定量的なデータとして、大気汚染常時監視測定局で同時に測定されている二酸化硫黄濃度などの他の大気汚染物質濃度および温度等の気象条件も併せて収集しました。また、近年の主要な発生源である自動車の都内での台数および走行距離について、国土交通省による『自動車輸送統計月報』を用いて推計しました。一般の経済活動指標については、東京都が行っている有害大気汚染物質のモニタリング調査で測定されている国内使用量の最も多いトルエン濃度を代用しました。定性的データとして、大気汚染に関する法令および行政の規制あるいは交通網の整備の施行年および内容等について東京都環境局のホームページ等からまとめました。なお、大気汚染に関する行政の規制の一つである自動車排出ガス規制の中にはPM濃度の排出基準があり、段階的に厳しい基準値が設けられましたので、その値も定量的データとして用いました。この排出基準強化に適合するために、ディーゼルエンジンおよび排出ガス処理装置の改良が行われています。
 さらに、1日の経時的な変化について、2002年から2010年についての上記の4つの大気汚染常時監視測定局のPM2.5およびSPMの時間値を用いて検討しました。

 

 その結果、PM2.5およびSPM濃度はここ20年間、ほぼずっと減少傾向にあることがわかりました。その減少傾向と都内自動車の走行距離の減少傾向との間には強い相関関係がありました。このことは、経済不況や首都圏三環状道路の整備等による都内での自動車の走行距離の減少がPM2.5およびSPM濃度に大きく影響を及ぼしていることを示唆しています。また、PM2.5およびSPM濃度の経年的な低減速度は、自動車の走行距離の低減速度と比べ大きかったことから(上図)、他の要因がPM2.5およびSPM濃度の低下に寄与していることが想定されました。そこで、PM濃度の排出基準を含む3回の規制強化の導入年度前後での変化をみると、PM2.5およびSPM濃度の時間値が基準値を超える頻度は、それぞれの規制導入後から大幅に減少していました。このことから、行政規制による自動車排出ガス由来のPM2.5およびSPM濃度の減少が都内の汚染状況の改善につながったと考えられます。

 1日の経時的な変化を2002年と2010年とで比較してみると、2002年の平日では、午前中(朝5〜10時)にかけてPM2.5とSPMのどちらの濃度も高い状態が観察されましたが、2010年にはこの状態がほとんど解消されていました。2002年にみられた朝5〜10時のPM2.5の高濃度状態がなくなったことが、この時間帯のSPMの高濃度状態の解消につながったと考えられます。2000年以降におけるPM2.5の高濃度の出現頻度の減少は、この排出基準強化に適合するためのエンジンの改良や排出ガス処理装置の改善が寄与したと考えられます。

 以上をまとめると、東京都の大気汚染状況がここ20年にわたり改善傾向が続いている理由として、都内の自動車走行量の減少、行政規制、および行政規制に対応した自動車のエンジンおよび排出ガス処理装置の改善という3つの要因が考えられました。


【発表論文】
1990年から2010年の東京都のPM2.5およびSPMの減少傾向1)
2002年〜2010年の平日と日曜日でのPM2.5およびSPMの異なる低減傾向2)
1) Hara K, Homma J, Tamura K, Inoue M, Karita K, Yano E. Decreasing trends of suspended particulate matter and PM2.5 concentrations in Tokyo, 1990-2010. Journal of the Air & Waste Management Association. 63(6):737-748, 2013. [More information]
2) Hara K, Homma J, Tamura K, Inoue M, Karita K, Kondo Y, Yano E. Difference in concentration trends of airborne particulate matter during rush hour on weekdays and Sundays in Tokyo, Japan. Journal of the Air & Waste Management Association. 64(9):1045-1053, 2014. [More information]

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