研究紹介Our research


ライフスタイル改善によって中学生の愁訴は減少するか?
―クラスター無作為化比較試験による実証的研究―

(渡邉純子, 南九州大学健康栄養学部 准教授, 専門職学位課程)

将来を担っていく青少年の心身の健康問題は、公衆衛生で解決を図っていくべき大きな問題の1つです。心身の健康には朝食の欠食や就寝時間の遅さなどの生活習慣が関連するということがマスメディアなどでも取り上げられています。そのなかには「こうやったら、こうよくなった。。。」などのサクセスストーリーも少なくありません。本当にライフスタイルを改善することによって心身の不調の訴え(愁訴)を改善できるのか、という問題を考えたとき、エビデンスの高い研究デザインとして無作為化比較試験があります。これは食育を行う群と行わない群(従来の教育方法)を無作為に割り付けて一定期間教育を行い、その効果を評価するというものです。こうしてエビデンスを提示し、今後の教育に役立てていくことを考えたのがこの研究です。この研究の結果を国際学術誌PLOS ONEに発表したので、主な結果を紹介します。

 この研究は、クラスター無作為化比較試験に基づいて中学生のために策定した学校・家庭連携型ライフスタイル改善プログラム(School based home-collaborative lifestyle education program for adolescents:PADOK)による愁訴数(Subjective Psychosomatic Symptoms, SPS)の減少効果の評価を目的としました。 研究デザインは学校を単位(クラスター)として無作為に割り付けを行う、クラスター無作為化比較試験という方法を用いました。これは教育を行うときに同じ学校に通る生徒に異なった教育を行うことは望ましくないという点を考えたことによります。対象は2013年4〜9月に、同意を得た熊本県内中学校19校(生徒1,509名、男子724名、女子785名、年齢12〜14歳)です。介入方法は、無作為に介入群(PADOK、10校)、対照群(通常の中学校教育、9校)に割り付けました。介入期間は6カ月間です。PADOK群は、管理栄養士による中学生のSPS低減のためのライフスタイル教育セッションを6回(50分/1回)、中学校・生徒・保護者連携によるホームワーク5回(1回/月)、ニューズレター4回による教育介入をしました。対照群は中学校の通常の教育としていますが、皆さんには同じようにFFQW82という食事調査票を用いて食事調査を行っていますので、その結果を紙ベースでの食事調査報告としてお知らせしました。

 主要評価指標はベースラインから介入6カ月後のSPS個数の差の平均値の介入群と対照群での差を取り上げ、そのほか生活習慣の変化やBMI、食事摂取量の変化などを検討しました。

 研究のフローは図1に示すような流れになります。
 

表1がSPSの個数の変化に関する解析結果です。ベースラインから6カ月後には介入群で-0.5と下がっていることがわかりました。さらに、朝食に主食、主菜、野菜をとる頻度が30%程度増え、学校が楽しいという生徒が45%ほど増加したのです。
 

 これらのことから、PADOKを用いたライフスタイル教育は中学生のSPS減少や食習慣の改善に役立つことが示されました。今後、このような食育プログラムを実施することの有用性を検討し、青少年の健康増進や将来の疾病予防にも役立つ施策を実施できるよう、さらに検討をしていきたいと考えています。


【発表論文】
Watanabe J, Watanabe M, Yamaoka K, Adachi M, Nemoto A, Tango T.
Effect of School-Based Home-Collaborative Lifestyle Education on Reducing Subjective Psychosomatic Symptoms in Adolescents: A Cluster Randomised Controlled Trial.
PLOS ONE. 11(10):e0165285, 2016 (Oct).


 


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