研究紹介Our research


日本においても収入は慢性腎臓病と関係するのか。
(天野 方一さん [MPH2年コース2年生])

我が国において透析を必要とする末期腎不全(End Stage Kidney Disease: ESKD)患者は年々増加し、2011年には30万人を超え、その医療費は1.4兆円に達しています。そのため、その前段階である慢性腎臓病(Chronic kidney Disease: CKD)の早期発見と治療が重要視されています。また、CKDはESKDの危険因子のみならず心血管疾患の発症、増悪因子の1つであることも明らかになっており、我が国での効果的なCKD予防対策の確立は公衆衛生上最も重要な課題の1つです。
 海外では、CKDの発症や重症化には所得や職業断層、学歴などの社会経済的地位(Socioeconomic Status: SES)に代表される社会的決定要因が関連しているとの報告が散見されますが、国民皆保険・universal healthcare coverage (UHC)が達成されている我が国でも同様な傾向が認められるかはわかっていません。そこで、今回は我が国における個人の世帯所得とCKDの有病との関連を横断的に調べ、Healthに報告しましたのでその主な結果を紹介します。

 今回の研究では、2011年度の国民健康・栄養調査を用いて、対象者8762人のうち血清クレアチニン(Cr)が測定されている3557人のデータを用いて解析を行いました。推算糸球体濾過量(eGFR)60ml/min/1.73m2未満をCKD群、60ml/min/1.73m2以上を非CKD群としました。世帯所得は200万円未満/年を低所得群としました。多変量解析として、CKDを目的変数にし、年齢、ヘモグロビン値、アルブミン値、肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病等及び世帯所得を説明変数にした多重ロジスティック回帰分析を行いました。

 主な結果として、低収入の人はそうでない人と比較し、CKDに罹患している傾向にあることがわかりました(下図)。この傾向は、多変量解析で他の要因を調整しても認められました(CKDありのオッズ比が約1.3)。
 


 国民皆保険・UHCが達成している我が国においても、低収入の人は医療へのアクセスが乏しく、その結果としてCKDの有病率が高い可能性が考えられます。効果的なCKD予防対策を行うには、より効果的な健診システムを構築しCKDの早期発見を繋げていくことや個々への保健指導といったハイリスクアプローチだけではなく、社会全体としての改善を目指すポプレ―ションアプローチが必要です。


【発表論文】
Amano H, Fukuda Y, Kitashima C, Yokoo T, Yamaoka K. Individual income status correlates with chronic kidney disease in Japan beyond metabolic risk factors: cross sectional study. Health. 9(11): 1516-1528, 2017 [More information]


研究紹介一覧に戻る

帝京大学大学院公衆衛生学研究科

〒173-8605
東京都板橋区加賀2-11-1
TEL 03-3964-1211(内線:46210)
FAX 03-3964-1058






学生からのメッセージ

進路状況

帝京国際サマースクール

ハーバード特別講義

帝京-ハーバードプログラム

TSPH ニュースレター