研究紹介Our research


進行トリプルネガティブ乳がんでの抗がん剤の効果の評価に無増悪生存期間を使うことができるか?
(平井 岳大さん [DrPH2年生])

トリプルネガティブ乳がんは、乳がん全体の10〜20%を占めると言われる乳がんのタイプの一つで、治療薬の選択肢が限られているため、新薬の開発が待たれています。がんの治療成績は治療後のある時点での生存率(5年生存率など)や死亡までの時間(全生存期間:OS、注1)で評価され、新しい治療法の有効性の評価でもOSの延長が重視されます。米国当局の新規抗がん剤の承認では、存命であって腫瘍縮小効果判定で「増悪」と判定されるまでの時間(無増悪生存期間:PFS、注2)をOSの代替エンドポイント(注3)と仮定して有効性が判断されることが多いという報告があります。PFSをエンドポイントにした場合、OSの場合と比較して、治療効果を検証する臨床試験への参加をお願いする患者数が少なくてよく、また、期間も短くてすむという利点があります。これまで、タイプを限定しない進行乳がん全体では、PFSがOSの妥当な代替エンドポイントであるかはっきりしておらず、ER陽性かつHER2陰性というタイプの進行乳がんではPFSはOSの妥当な代替エンドポイントである可能性が示されていました。そこで今回、進行トリプルネガティブ乳がんでPFSがOSの妥当な代替エンドポイントであることを示し、Breast Cancer Research and Treatment誌に報告しましたので、主な結果を紹介します。

 今回の研究では、メタ・アナリシス、すなわち、これまでに行われた個々の研究の結果を集めたものを統計学的に分析して結果を統合するという方法を用いました。過去の報告を偏りなく収集するために、”triple-negative breast cancer”と”trial”というキーワードで文献データベースを検索して得られた404報の研究論文とコクラン・ライブラリーを検索して得られた606の臨床試験から、OSとPFSのデータがない等の事前に定めた基準による除外、報告の重複の削除などを経て、最終的に14のランダム化比較試験(総参加患者数3,880人)を分析対象として選びました。代替エンドポイントとしての妥当性を、「個人レベルの代替性」および「集団レベルの代替性」(注4)により検討しました。

 主な結果として、PFSで求めた新治療の効果とOSで求めた効果の間に一定の比であらわせる関係があったことから集団レベルの代替性が示され、臨床的に重要なエンドポイントであるOSに対して、PFSは妥当な代替エンドポイントであることが示されました。

 


 進行トリプルネガティブ乳がん患者を対象とした臨床試験では、増悪を抑えること、すなわちPFSをよくすることで生命予後がよくなることが期待できます。また、PFSを抗がん剤の効果指標として臨床試験を実施することによって、短い期間で効果を検証することができるようになると考えられます。この知見は、今後の抗がん剤の臨床開発に役立てられます。

(注1)OS:overall survival.
(注2)PFS:progression-free survival.
(注3)エンドポイント:医薬品の有効性を評価するための観察項目。代替エンドポイントは、臨床的に重要なエンドポイントとの関連が強いが、それ自体は臨床的有用性を直接示すものではない。
(注4)詳しくは専門書(米国SWOGに学ぶ がん臨床試験の実践 第2版(原書第3版)、2013年、医学書院など)を参照。
(注5)相関係数:相関(2つセットの数値の間に関連があること)の尺度。片方の数値が高い時もう片方の数値も高いことが多い時、相関係数は1に近づく。相関がない時、相関係数は0に近い値となる。


【発表論文】
Hirai T, Nemoto A, Ito Y, Matsuura M. Meta-analyses on progression-free survival as a surrogate endpoint for overall survival in triple-negative breast cancer. Breast Cancer Research and Treatment. 181(11): 189-198 , 2020 [More information]


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