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SPH学生の活動紹介記事

2020.07.21

災害時の避難所におけるPublic Health

はじめに、この度の九州・西日本地域での「令和27月豪雨」で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、今なお大変な思いをされている被災者の皆様にお見舞い申し上げ、一日も早い復興をお祈り致します。

災害が起こると医療だけではなく、人々の健康をまもるための取り組みである【公衆衛生(Public Health)】も非常に重要となります。阪神・淡路大震災以降、災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team :DMAT)を含む緊急医療支援体制は改善しましたが、災害時の避難所における公衆衛生面の改善は大幅に遅れています。

私(坪井基浩)は201910月の台風19号に伴う災害時に、日本赤十字社医療救護班の医師として被災地の避難所を巡回し支援活動を行いました。救護班は医師、看護師、事務から構成される「医療チーム」ですが、診療だけではなく、避難所環境など公衆衛生面の改善も重要な役割のひとつでした。例えば、現在は新型コロナウイルスが脅威となっていますが、東日本大震災では避難所でのインフルエンザや胃腸炎などの感染症流行がみられ、感染症対策は必須でした。また、避難所のトイレが使いにくく、避難されている方が飲水を控える傾向があることに重ね、災害自体だけではなく避難生活のストレスが重なることで心血管疾患や脳血管疾患のリスクが増えます。そのためトイレへのアクセス改善やストレス軽減のためのエアマットなどの安眠グッズの取り寄せも迅速に行いました。他にも、避難所の居住環境、ライフライン、食事、必要物資などその他さまざまな事項について避難所の運営自治体と問題点を検討し、改善策を考え、災害対策本部に報告します。しかし、災害時の混乱の中ではすぐに解決できない公衆衛生の問題が多々あります。例えば、
・日本の避難所で温かい食事が手に入るのはいつでしょうか。
・簡易トイレは車椅子で使用できるでしょうか。
・コロナ禍で雑魚寝から解放され段ボールベッドが活用されようとしていますが段ボールベッドは万能でしょうか。
・新型コロナウイルスを避けて知人宅など分散避難している避難者にいつ支援が届くのでしょうか。
・通信手段が断たれた時、高齢者や障害者は孤立しないでしょうか。
このように少し例を挙げただけでも、災害時の公衆衛生はいまだ改善の余地が大いにあります。

ただ過去の災害では避難所で中学生が率先してラジオ体操を毎朝行って、1日の生活リズムを作ろうと取り組んだ例や、今回の「令和27月豪雨」では被災者の衣服の洗濯のための移動式無料ランドリーサービス車もいち早く登場した例があります。ATMが搭載されている移動式郵便局車も登場し、当面のお金を避難所に居ながら入手できるようになったところもあります。こうした被災した人たちへのきめ細かなサービスに気づくことも公衆衛生分野の重要な役割ではないでしょうか。避難所では「災害という厳しく辛い経験をした人たちにこれ以上辛い思いをさせない」観点からの支援をさらに広げていく必要があります。

MPH1年生 坪井 基浩・准教授 崎坂 香屋子

(写真1)坪井医師の避難所での診察風景

(写真2)東日本大震災時の岩手県陸前高田市高田第一中学校避難所:中学生がはじめた毎朝のラジオ体操(201141日、陸前高田被災地語り部 くぎこ屋提供)

(写真320187月の西日本豪雨の避難所:ダンボールベッドとカーテンができた避難所(岡山県真備町、避難所・避難生活学会 水谷嘉浩氏提供)

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