2021.07.23
ポジティブ・デビアンス(ポジ・デビ)を探そう
「解決策は隠れている ー いつもと違うレンズで地域保健問題を考えてみよう」
「地域保健における行動変容とポジティブ・デビアンス」と題された講義で、栄養不良対策ネットワークの渡辺鋼市郎代表は、こう学生に呼びかけました。ポジティブ・デビアンス(ポジデビ)を知っていると答えた学生は、5分の1程度でしたが、ブレーンストーミング・セッションやグループ演習を経てポジデビのエッセンスを学ぶことができました。
ポジデビとは、地域や組織において特別なリソースを持たずに、他の人たちとは違った行動や方法により、上手に問題を解決している個人やグループを発見し、彼らの行動や方法を普及することで、問題解決をするアプローチです。
これは、問題点(欠如)を発見し、外部からの支援によりそのニーズを満たそうとする課題解決型アプローチとは対照的です。ポジデビ・アプローチでは、すでに地域・組織内にある解決方法を活用することで人々の行動変容を促すため、問題解決型アプローチでしばしば課題とされる持続性の確保にも有効であることは、講義で紹介された事例からも明らかです。
講義では、渡辺代表が、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SSCJ)の初代ベトナム代表として、米国セーブ・ザ・チルドレンとの協働によって実施した「子どもの栄養改善事業」がポジデビ・アプローチの一例として紹介されました。
学生たちは、ポジデビ・アプローチの具体的な流れー
「問題の特定」(ステップ1)、「ポジデビの子供と家庭の存在を知る」(ステップ2)、「ポジデビ行動の発見と分析」(ステップ3)、「分析結果に基づく活動計画と実施」(ステップ4)、「地域によるモニタリング・評価」(ステップ5)を学びました。
私が事例から得た主な気づきは3つあります。
一つめは、「量的調査により収集したデータを統計的にみた時、組織・社会を変容させるための鍵は、平均値や中央値ではなく、分布曲線の端にあること」、
そして、「端っこに属する人々によるユニークで工夫された行動をありのままに描き出すために、熟練した調査者による各種の質的調査を実施することが大切である」ということ、
さらに、「援助する側のマインドセット・チェンジの必要性」です。
ポジデビを普及する側が普及対象に抱きがちなバイアス「貧しい人たちにはできないだろう」を取り除き、地域のリーダーと対話を重ねることで、リーダーが問題解決への意思を持つことをファシリテートしていくことの重要性です。
今回紹介された事例は途上国を対象としたものでしたが、ポジデビ・アプローチの対象は私たちの身近にあります。例えば、ブレーンストーミング・セッションにおいて、一つのグループが発見したポジデビ例として、コロナ渦において多くの業者が経営難に直面する中、在宅勤務用のスペースとして個室を貸し出すカラオケ店や、タクシー会社との協力により弁当の宅配に活路を見いだした飲食店などが挙げられました。
あなたの身近にも、特別なスキルや予算を持っていないのに、成果を上げている人はいませんか?その人のちょっと変わった行動こそがポジ・デビであり、問題の解決に繋がるかもしれません。あなたもポジデビを探してみてはいかがでしょうか。
後期博士課程2年 喜多桂子
(写真1)グループ演習
(写真2)グループ演習の結果発表